「学びのつながり」を生かして、要約文を書く

「学びのつながり」を生かして、要約文を書く

教材: 「ウナギのなぞを追って」 (光村図書4年/全9時間)
実践者:伊藤 怜香先生 (新潟県・公立小学校)
本時のねらい:①事実と意見の関係を読み取り、興味をもったところを中心に要約する。「学びのつながり」を生かして、要約文を書く
②読者に興味をもたせるための表現方法を活用する。

沼田先生:Q:槙原先生の勤務される中学校では「ホワイトボード+プロジェクター型電子黒板」を使用しているのですね。槙原先生は以前、小学校での教員経験もあると聞きました。小学校教員時代は、黒板を使っていたと思いますので、「小学校と中学校の授業の違い」や「黒板と電子黒板の違い」で何か感じる部分はありますか。

伊藤先生:A:「事実と意見の関係を読み取り、自分が面白いと思ったところを中心に要約して伝える力」と「読者に興味をもたせるための表現方法に気付いて活用する力」の2つを身に付けてもらいたいと考えました。
2学期に実践した「世界にほこる和紙」でも要約文を書く学習をしたのですが、全員で中心文を探して、確認して……ということを繰り返した結果、できあがった要約文は、みんな同じような文章になってしまいました。その要約文ができあがるまでに、一人一人がどれだけ思考を働かせたのかな?とふり返ると、学びとしては不十分だったように思います。
そこで、今回の「ウナギのなぞを追って」では、一次・二次で本文の内容や子どもたちの考えを引き出し、整理することで土台を作り、三次で要約文を書くときにはある程度一人で書けるようにしようという意識で授業に臨みました。今回の授業では、対比型で情報の整理をしたり、移動型で事実と考えを分けたりと子どもたちの思考を整理するツールとして立体型板書の型を活用しました。また、スケーリング型を使うことによって、自分の立場をはっきりさせることができたため、学習を自分事としてとらえることができました。

単元計画

目の前の子どもたちを大切にして学びの土壌をつくる
授業は、ただ国語の指導事項を理解するだけでは「つまらない授業」になってしまいます。なぜなら、そこに子どもたちの思考の場がないからです。やはり、子どもを「表現者」に育ててこそ、充実した国語授業と言えるのではないでしょうか。そのためには、今、目の前にいる子どもたちには、どんな「言葉の力の耕し」が必要なのかを見極めることが大切です。言葉の力を耕す活動の中で、学びの土壌はできあがっていきます。では、どのようにして学びの土壌をつくるのかを見てみましょう。

沼田先生:Q:実際に授業をやってみてどうでしたか?特に印象に残っている授業はありますか?

伊藤先生:A:板書をより効果的に使うには、余白が必要だということを実感しました。余白がなく、文字でびっしり埋まった板書は、なんだかすごく勉強を頑張った気持ちにはなるのですが、集中力や注意力が散漫な子どもにとってはどこを見たら良いのか分からなくなってしまうようです。ある程度余白のあるスッキリとした板書の方が、子どもたちの視線を同じところに集めやすく、その分思考しやすい板書なのだと思いました。そのためには、 黒板に何を書いて、何を書かないのかを考えなければいけないのですが、それが今の私にはまだ難しいところでもあります。ですが、余白を考えることが単元の学びのポイントを考えることにもつながっていて、私自身の学びにもなりました。
今回の実践の中で、とくに印象に残っているのは6時間目です。

第6時の板書写真

要約文を書き始める前に、おうちの人に分かりやすいような技を考える時間を取りました。2時間目で確認した文章の構造であったり、5時間目で確認した気持ちの表現の役割であったり、これまでの学習を思い出しながら考えている子が多かったです。6時間目で要約文を書く時のポイントを全体で共有できたので、7時間目からの要約文作りが比較的スムーズにいったように思います。

学習の積み重ねは、板書に現われる
「余白」の使い方は、伊藤先生自身の授業実践の積み重ねによって見えてきた重要な指摘です。文字の量を増やしすぎないことももちろんですが、「板書の構成をシンプルにすること」を意識すると子どもたちの頭もスッキリします。また、「板書のつながり」については、この後に紹介する全時間の板書を見比べながら探してみてください。文章構造や要約に必要なキーワード等、学びの深まりへと向かう大切な要素がたくさんつながっています。

沼田先生:Q:単元を通して、板書を意識的に活用することで、子どもたちの言葉や思考にどのような変化を感じましたか?

伊藤先生:A:先程、スケーリング型の板書の効果として、学習を自分事としてとらえることができることを挙げましたが、それ以外の型でも板書を意識することで子どもたちの学ぶ意欲のスイッチが入ることを実感しました。例えば、3時間目に事実と筆者の考えを分ける学習をした時のことです。黒板に並べて貼ったセンテンスカードを一つだけ動かした後、「あともう一つだけ動かすとしたらどれにする?」と問いかけました。その瞬間、みんなが黒板を見ながら「あれかな?」「いや、こっちじゃない?」「先生、まだ答え言わないでね!」と自分の考えを周りの友達と話し始めた場面がありました。

第3時の板書写真

板書をきっかけに「考えたい!」「話したい!」という思いが強まった瞬間だったと思います。そして、子どもたちは、話し合う中でそう考えた理由についても話し始めました。これまでの要約を扱った授業のように、こちらから教え込む一方通行の授業ではなく、子どもたちのつぶやきがつながって、それを板書で整理しながら学習が進んでいく「双方向の授業」に変化していったことがとても嬉しかったです。

板書は子どもたちの意欲を引き出すツールになる!
板書は消えていってしまう言葉を可視化し、思考を整理するだけの場ではありません。伊藤先生の実践のように、「気付き」が生まれる板書を意識することで、より効果的に板書を活用することができます。板書がしかけとなり、学びを深めるきっかけになるのです。板書を通して話し合いが盛り上がり、前のめりになって学ぶ子どもたちの姿が思い浮かびます。拙著『書かない板書』では、「板書しかけワード」として、子どもたちの思考を活性化する多くの手立てを紹介しています。ぜひ、合わせてご覧ください。

第1時の板書写真
第2時の板書写真
第4時の板書写真
第5時の板書写真
第7時の板書写真
第8時の板書写真
第9時の板書写真

沼田先生:Q:伊藤先生の板書は、思考を「整理する」ために用いている部分と、思考を「深める」ために用いている部分があるように感じました。その辺りについても教えてください。

伊藤先生:A:毎回ではありませんが、授業の前半は子どもたちの考えを聞いて整理すること、後半は学習のゴールに向けて押さえておきたいことを考えることに重点を置くように意識しています。 6時間目では、前半に「どこを一番おうちの人に伝えたい?」というWhich型課題を投げかけました。子どもたちは「自分の面白いと思ったところを中心に要約文を書く」というゴールを知っているので、パッと自分の一番面白いと思ったところに手を挙げます。それをスケーリング型の板書を使って整理しました。後半には「短い文章の方がいいから、要約文は今選んだところだけで良いよね。」と問いかけることで思考をゆさぶり、「え?いいの?」「だめだよ、それじゃ分からないよ。」と要約文の書き方につなげました。これまでの経験から、いきなり後半のような少し難しい内容に入ると、自信をもって自分の考えを出せる子の割合はぐっと減ってしまうように感じています。前半で自分たちの考えを出し合って整理する段階を踏んでいるからこそ、後半の「深める」ところでみんなが考えられるようになると思っています。

板書を使う「目的」を明確にする
伊藤先生のように、学びを深める段階に入る部分に難しさを感じている先生は多いのではないでしょうか。授業の前半において、どこまで子どもたちの思考を耕せているのかによってこの深まり具合は変化します。先程、「気付き」をもたらす板書の活用法を紹介しましたが、第6時のように、思考を深めるために板書で「まずは整理する」という活用の仕方も大切です。「まずは整理する」と「ただ整理する」では、ちょっとした意識の差ですが、子どもたちの学びの姿は大きく変化します。子どもたちが「表現者」として活躍するために、板書を活用した思考の整理を心がけましょう。

沼田先生:Q:最後になりますが、今回、単元を通した板書デザインを行ってみて、板書で「学びのつながり」を生み出すポイントはどんなところにあると感じましたか?

伊藤先生:A:今回、私は「おうちの人に『ウナギのなぞを追って』を紹介しよう」という言語活動を設定して授業を進めました。ゴールをはっきりさせ、ゴールにたどり着くためにはどのような学びが必要なのかを細かく分けて考えました。要約文を書くためには、教材文を理解することと自分の考えを整理することが必須です。板書でそれらをどうやって進めていこうか、と考えていったときに、自然と立体型板書の型に当てはまっていったという感覚です。
また、沼田先生も以前から書籍やセミナーを通して仰っていますが、今回の授業で立体型板書とWhich型課題の相性の良さを、身をもって体感できました。子どもたちにWhich型課題を投げかけると、一人一人が自分の立場を決めて、お互いの考えについて自然に交流していきます。そして、そこで出た考えをスケーリング型や対比型の板書で整理する中で、相手の考えを受け入れたり、自分の考えをより確かなものにしたりすることができました。また、単元としての学びのつながりの他に、子どもたち同士の学びのつながりも深まったように思います。

板書のつながりが、言葉の学びを深める
単元序盤では、丁寧に確認しなければ理解できなかった文章構造や筆者の論理のつながりも、授業で繰り返し扱う中で、徐々にシンプルにすることができます。また、子どもたちも自分の言葉で説明ができるようになっていきます。このような活動の積み重ねによって、学びは蓄積されます。そして、これらの知識は、子どもたちの頭の中にある「言葉の引き出し」に整理され、いつでも引き出すことのできる知恵となって、言葉の学びをより豊かにしてくれるのです。

すべての学びは「つながり」の中で生み出されています。過去の私と今の私。今の私と未来の私。この「つながり」と同じように、板書も「つながり」を意識することで学びに「深まり」が生まれます。1時間の板書をじっくりと考えることも大切ですが、その板書が次の時間、またその先の板書へとどのようにつながっていくのかを考えることもぜひ意識して考えてみてください。必ず子どもたちの「言葉の学び」に大きな変化をもたらします。伊藤先生の「過去の実践から学ぶ授業づくり」のように、子どもたちの「今」と「未来」をつなぐ国語授業をめざしてみませんか。

〈参考文献〉

桂聖、N5国語授業力研究会(2018)『「めあて」と「まとめ」の授業が変わる「Which型課題」の国語授業』東洋館出版社

沼田拓弥(2020)『「立体型板書」の国語授業 10のバリエーション』東洋館出版社

沼田拓弥(2022)『書かない板書 〜子どもの思考を引き出す「余白」をつくる〜』東洋館出版社