「人物相関図型」で思考を広げ、深める ―読みを深めるための1時間目のつくり方―

「人物相関図型」で思考を広げ、深める ―読みを深めるための1時間目のつくり方―

今月は、「立体型板書」を活用した国語授業実践に取り組み続けている、教員3年目の浦部敬太先生(熊本県・公立小学校)と沼田拓弥先生の対話を通して、「人物相関図型」を活用した「海のいのち」の1時間目の授業づくりを考えます。
初発の感想を聞いてしまいがちな物語の導入ですが、浦部先生は「人物相関図型」を活用して、学びの土台を整える工夫をしています。

教材:海のいのち(東京書籍6年/第1時)
実践者:浦部 敬太先生(熊本県・公立小学校)
本時のねらい:物語のあらすじを一文で表現することで、物語のおおまかな内容をつかむことができる。

教材:風のゆうびんやさん(東京書籍2年/第7時)
実践者:遊免 大輝(大阪府・公立小学校)
本時のねらい:場面の様子に着目して、登場人物の行動を具体的に想像することができる。

立体型板書を生かした板書

沼田先生:Q:「海のいのち」の授業を組み立てるに当たり、どのような問題意識がありましたか。

浦部先生:A:6年生で読む物語教材ということもあり、これまでの学習を生かして、しっかりと全員で読み深められる授業をつくりたいと考えていました。そのうえで、特に導入となる1時間目を工夫したいと考え、組み立てました。
一般的に物語教材の第1時は、初発の感想を書く活動が行われていることが多いのではないでしょうか。私も教員1・2年目の時は、教師の範読後に「まずは感想を書いてみよう」と指示し、初発の感想を書く活動を取り入れていました。しかし、1回の範読だけでは感想を書けない子もおり、1時間目から学習に対して意欲を失わせてしまっていると感じていました。感想を書けない子の多くは、物語のあらすじを正確に読み取ることができず、そのあとの学習にも影響があるように感じられました。そのため、導入の段階で「全員が物語のあらすじをつかみ、そのうえで感想を書ける」ことを目指したいと考えました。
これまでも、『サボテンの花』『風切るつばさ』といった物語教材を学習する際に、第1時で、物語のあらすじを表現する活動を取り入れたことがあります。そのときに、あらすじを押さえることがその後、物語の読みを広げたり、深めたりするうえで非常に役立つことを実感していました。「海のいのち」では、物語の構成やおもしろさ、そして、「物語が読み手に訴えかけてくるものを、子どもたちには考え、味わってほしい」という願いがありました。そのため1時間目をこれまで以上に大切にしたいと考え、本時のような授業を行いました。

沼田先生:Q:「全員が物語のあらすじをつかみ、そのうえで感想を書ける」ことを達成するために、どのような工夫を行いましたか?

浦部先生:A:立体型板書の「人間関係図型」を取り入れて、物語のおおまかな内容を全員がつかめるように工夫しました。
まず、授業の冒頭で子どもたちと一緒に学習の目的(単元のゴール)を確認しました。今回の授業の目標は「物語のあらすじを一文で表現することで、物語のおおまかな内容をつかむことができる」です。物語の内容をおおまかにつかむには、登場人物を正確に把握しておくことが欠かせません。そこで、「人物相関図型」を活用することに思い至りました。
授業の展開としては、

①デジタル教科書の範読機能を使い、教材文を通読する。
②教師(私)は板書に人物相関図を描く。このとき、登場人物の配置とクエのイラストのみを描く。

③通読後、クラス全体で物語のあらすじを確認する。教師は、「この後はどうなった?」「暑い日に喉元まで毛布をかけるってどういう意味かな?」など、子どもたちの発言を板書に書き加えていく。
④内容をおおまかにつかんだ上で、「この物語は、だれが、何をして、どうなった話」という型を用いて、物語のあらすじを一文にまとめる。

このような流れで授業を行ったところ、最後にまとめたあらすじも、子どもそれぞれに違いが生じ、興味深く感じられました。例えば、太一を主語にしている子がほとんどでしたが、なかには与吉じいさを主語にしてあらすじをまとめている子もいて、第2時以降の展開で扱うとおもしろそうだなと思いました。

「人物相関図型」で学びの土台を整える
浦部先生の授業に対する願い、子どもたちへの願いが伝わってきました。学習指導要領に示されている読みの学習過程にも「構造と内容の把握」が挙げられています。全員が学びの土台を整えてから「精査・解釈」に入れるかどうかは私も大きな分かれ目だと考えています。子どもたちの言葉を一文表現で自由に引き出すことで作品のキーワードが見えてきます。

沼田先生:Q:初発の感想を書く前に、全員であらすじをつかむことの意義を感じる実践報告ですね。さらに具体的に、どのような子どもの姿が見られたのか、またそれに対し、浦部先生がどのように考えたのかを教えてもらえますか?

浦部先生:A:子どもの「つぶやき」の質の変化を感じ、子どもたちが自分なりに思考を広げたり、深めたりしていると捉えました。 授業の展開①のデジタル教科書による通読後、物語のあらすじを子どもたちと確認している場面です。登場人物を確認していると、子どもたちが「クエってどんな魚だろう」「太一のお父さん、かわいそうだな」「なんで太一はクエをもりでささなかったのだろう」とつぶやきはじめました。一見、子どもたちが自由にしゃべっているように見えますが、この「つぶやき」こそ、子どもたちが自分なりに思考を広げたり、深めたりしている証拠だと考えています。一人の子どもがつぶやき、その一人のつぶやきに対し、他の子どもがつぶやく……。そうしていくことで、つぶやきが「個の学び」だけでなく、「学級全体の学び」へ広がり、深めていくことにつながりました。 このつぶやきは、「人物相関図型」を用いたからこそ、引き出せたのではないかと思います。「黒板」という、だれもが、どんなタイミングでも参照できるものに記録が残されていたからこそ、学級全体の学びとして確かめることができたと感じています。また、人物同士を線でつないだり、関係性を短い言葉でメモしたりする過程も黒板を通して共有しているので、第2時以降に考えたい疑問を共有することにも自然とつながっていきました。

思考の活性化は「つぶやき」が鍵!
これまでの授業を振り返って自身の授業をアップデートされる浦部先生は素敵ですね。「まずはやってみる」ということが私も大切だと思います。もちろん話し言葉だけでもあらすじを確認できますが、板書を効果的に活用することで多くの子どもたちの視覚支援にもなります。
そして、その板書を見ることでどれだけの「つぶやき」が生まれるかが授業活性化の鍵です。つぶやきは子どもの本音です。子どもたちの「あっ!」という声がたくさん聞こえてくる板書を目指しましょう。

沼田先生:Q:浦部先生の授業は「広がり」と「深まり」がキーワードですね。この2つの視点から子どもたちの思考の変容を教えてください。

浦部先生:A:おおまかな内容の把握を行う場面では「広がり」を、1人の子どもの疑問が学級全体に波及していく場面では「深まり」を感じました。
まずは、「広がり」を実感した場面です。初読の後、子どもたちと一緒に登場人物を確認していきます。「この物語の登場人物は何人?」と聞いたところ、主な登場人物として「太一(中心人物)」、「クエ(瀬の主)」、「父」、「与吉じいさ」、「母」が出てきました。登場人物を確認できたところで、「この後はどうなった?」「この人はどんな行動をしたの?」などと問いかけ、子どもたちとの対話を中心に板書に付け加えていきました。このとき、ある1人が「父はある日、夕方になっても帰ってこなかった」とつぶやくと、私が拾うまでもなく、ほかの子が「そのあと、父は水中で事切れていたと書いてある」と、自分たちで内容の確認を進めていました。これが私の考える「広がり」です。物語のおおまかなあらすじをつかむために、まずは子どもの発言に耳を澄まし、「広がり」を意識した板書をしました。
「深まり」を実感したのは、「海」に対する父の考え(海のめぐみ)と与吉じいさの考え(千匹に一匹)の2つを板書したときのことです。1人の子が「なんか違う……」と発言しました。その意見に対して「2人の海に対する考え方って同じなのかな?」と全体に問い返したところ、多くの子どもたちが2人の海に対する考え方には違いがあると気付いたようでした。全体から部分に視点が変わり、その部分をより深く解釈しようとする姿に「深まり」を感じました。
これらのつぶやきは人物相関図があったからこそ生まれたと実感しています。

「人物相関図型」は、思考を広げ、深めるためのスイッチ
まずは「確認する発問」を中心に思考を広げています。言葉を広げることが、思考を広げることにつながります。子どもたちの気付きを板書に位置付けていくと、徐々に「気付きの浅い部分」が見えてきます。実は、その「浅い部分」こそ「深める」へと向かうきっかけになります。今回の実践も、子どもの気付きに対しての「問い返し」から新たな学びが始まりました。板書をきっかけにして、学びのスイッチが入ります。

沼田先生:Q:これまでの「立体型板書」の授業で身に付けた授業力は、この授業でどのように生かされていたと感じましたか?

浦部先生:A:板書を単に子どもの意見を集約するためのアイテムではなく、「子どもたちの思考を広げ、深めていくためのアイテム」として捉えることで、子どもを見る姿勢が変わり、結果的に授業全体での指導言などに変化が生まれたと考えています。
昨年度末から「立体型板書」の授業を実践しています。板書の実践を重ねていく中で、「板書」は子どもたちの意見を集約するためのアイテムではなく、思考するためのアイテムとして使うことで、子どもたちの読みが変わることに気付きました。
本時の授業では人物相関図型を使用していますが、この相関図は物語のあらすじを把握するうえでも有効ですし、物語のおおまかな内容を視覚的に共有することで、学級で同じ部分に着目して考えることができ、個々の思考を加速させることができたと思います。
「立体型板書」で授業をすると、教師自身にも気付きが生まれ、それが波及して授業改善につながります。板書を変えることは、実は発問を変えたり、学習活動を変えたりすることにつながるのだと思います。

「板書観」をアップデートする
何事も新しいことに挑戦する時にはワクワクするものです。これまでの自分の考えをアップデートする近道は、何よりも「やってみる」ことです。そして、「続ける」ことで見えてくる世界があります。私(沼田)も10年近く「立体型板書」に取り組んでいますが、今でも新たな発見の毎日です。「これまでの板書」から「これからの板書」へと、まさに「板書観」をアップデートすることで、授業の創り方も変化します。

沼田先生:Q:「立体型板書」に取り組み始めて1年弱との話がありました。「板書」は、子どもたちのどんな力を引き出すと考えていますか?

浦部先生:A:文字だけが並ぶ羅列型の板書でも授業は成り立ちますが、立体型板書にすることで、子どもたちの新たな気付き、発見、そして子どもの意欲を引き出すことができると考えています。今回も、実際に授業を進めていく中で、子どもたちから「『海のいのち』って難しいけど、おもしろい」「太一ってかっこいい」という声が聞こえてきました。このような子どもたちの「つぶやき」を引き出せたのは、人物相関図があったからです。子どもたちの読みや思考を広げ、深めていくうえで、板書はとても重要なものだと感じました。
とはいえ、板書は一つのツールに過ぎないという側面もあります。デジタルの時代となり、一人一台端末であるタブレットが普及しました。教育界でも「不易と流行」が大きな話題になっています。流行(時代の変化とともに変えていく必要があるもの)であるタブレットが普及した現代だからこそ、不易(時代を超えても変わらないもの)である板書の役割を考えることが求められていると考えます。板書の有効性を感じているからといって、一つのツールであることの以上のこだわりをもってしまうと、教師としての成長を止めてしまうと気を付けています。
最近は、国語科でもタブレット活用を研究しています。例えば、Microsoft Forms(アンケート機能)を授業のふりかえり時に活用しています。子どもたちのふりかえりをタブレット上で見ていく中で、成果や課題を把握できるようになりました。今回の「海のいのち」の実践を終えた後、「タブレットをうまく組み合わせられる場面がなかったかな」と反省していた自分がいました。次回、「海のいのち」を実践する際には、「人物相関図にグループで自由に書き込みを入れる」等、タブレットも効果的に活用していきたいと思いました。

新しい変化をどう取り入れ、どう変化していくのか?
タブレットを活用することで子どもたちの学び方は大きく変化しました。この変化を取り入れながら、「これまでの板書」は進化していくはずです。まさに「新しい時代の板書」の価値に光が当たり始めました。私も「板書×タブレット」の可能性をこれからも追究していきます。

私もこれまで多くの「人物相関図型」板書を用いて単元の導入を組み立ててきました。まさに今回の浦部実践のように思考が広がり、深まる場面に何度も出会ってきました。そして、何よりも子どもたちが国語を楽しむ姿が見られます。浦部先生が挑戦したからこそ見ることのできた子どもたちの姿があったはずです。私も若い時に我武者羅になって挑み続けていた頃を思い出しました。板書をきっかけに授業観、教育観をアップデートするおもしろさを浦部先生の言葉から強く感じることができました。

2年「スイミー」
4年「ごんぎつね」