「遊び」を取り入れた授業実践の事例

「遊び」を取り入れた授業実践の事例

今回紹介するのは、2021年度、山内先生が新渡戸文化小学校で実践した「“境界線をなくす” | Eliminate Boundaries」という授業です。
新渡戸文化小学校4年生が株式会社Innovation Designと株式会社モノファクトリーと一緒に“不要になったモノを長生きさせる”アイデアで児童たちが「作品=おみやげ」を生み出し、実店舗で展示・販売する、という取り組みです。

株式会社Innovation Designは、地球を守ることをコンセプトに、社会的な課題の解決を目指すおみやげショップ「haishop」を運営しています。地球上で起きている食料廃棄問題、気候危機、ジェンダー問題、地方衰退など、様々な課題を、廃棄物などで作成したおみやげ販売を通して知ってもらうことで、共感を呼び起こし、「ライフスタイルを少しだけ変えてみよう」と思う人を増やすことを目的にしています。
連携先のもうひとつ、株式会社モノファクトリーは“発想はモノから生まれる”をコンセプトに、業界の垣根を超えたモノの価値・本質を考えるビジネスコンサルティングを行う企業です。
この授業「境界線をなくす」は、イノベーションデザインが運営するポップアップショップ「haishop」と株式会社モノファクトリー、新渡戸文化小学校の3社共同プロジェクトとして実施しました。

株式会社モノファクトリーは、廃棄物の再利用に関するプロです。普段何気なく手に取っているモノにどんな人が関わり、どこから来て、消費されるのにどんな廃棄物がでるのか、廃棄後にどんな問題が生じているのかを、まず彼らから学びました。 日本人のゴミ排出量はどれくらいか、そのゴミ処理が国内で賄えず輸出されているという事実。そのモノがどのようにして手元に来たのか。そのモノを捨てた先はどうなるのか、ワークも交えながら1時間で体験的に学習しました。

1時間目は、手を動かすワークを取り入れつつも、知識を得ることに重点を起きましたが、次のフェーズ2時間目は“遊び”の出番です。子どもたちが素材(マテリアル)と出会い、存分に遊べる時間を設定しました。株式会社モノファクトリーから提供を受け、使われなくなったモノをずらりと並べました。キャップなどプラスチック製のものから、コルク、金属、シートベルト、発泡スチロール……など、大きさ、形、色も実に様々!これらの素材(マテリアル)を触って、並べて、見て……積極的にマテリアルと関わりながら、これで何ができるのか、遊ぶように手を動かしながら考えました。この活動が、「造形遊び」に該当します。

実は、この時点で子どもたちには、作品を学校外に展示することも、販売することも伝えていないのです。あくまで目の前にあるモノと存分に関わる時間にしたいと考えました。展示することを伝えてしまうと、それが「目的」になってしまいます。まだこの時点で「目的」は要りません。子どもたちは様々なマテリアルに触れ、遊びの特性を存分に生かしながら、「思いのままに発想や構想を繰り返していく」ことが大切なのです。

この授業は、株式会社Innovation Designと、株式会社モノファクトリーの社員も一緒に取り組んでもらいました。授業設計当初は、子どもたちがマテリアルで制作するにあたり、具体的なテーマが必要ではないかという意見もありました。「テーマなしでつくれるのか?」「何をつくればいいのか、子どもたちは分からないのではないか?」しかし、この授業を実際に見てもらい一緒に取り組んでもらうと、そんな不安は吹き飛びます。大人は子どもたちのアイデアにただただ驚くばかり!教えるでも導くでもない、その場で生成されていくことを面白がり、乗っかり、共に創っていく人としての「在り方」を、みんなで体感・共有することができました。

3・4時間目の授業の導入では、haishop店員(株式会社Innovation Design社員)より、「haishop」の紹介に加えて以下の提案を子どもたちに伝えました。

  • 素材(マテリアル)をつかって、モノを埋めるまでの時間を伸ばすアイデアを一緒に考えて欲しい。
  • テーマは、自分が欲しいと思うモノ。誰かにあげたいと思うモノ。この先も大事にされるモノを創り出して欲しい。
  • みんなが心を込めて、つくったものはhaishopのお店に並べる。

これにより、子どもたちがhaishopの仲間となって、スタッフと一緒にモノの寿命を伸ばすアイデアのつまった作品をつくろう、という関係性をつくり、授業をスタートさせました。

“大人—子ども”の関係はほとんどの授業の場合、大人(教える人/先生)—子ども(教わる人/生徒)という関係性をつくりますが、この授業での関係性は、“先生—生徒”ではなく、フラットなパートナーとして成立しています。マテリアルをつかってのモノづくりに「正解」はなく、大人が教えることはできません。子どもたちの想いやアイデアをどうしたら形にできるかを、大人も一緒に考えていく、こうした関わり方、在り方を、②の「造形遊び」の活動を体感することで理解してもらいました。

この授業における、子どもたちのモチベーションのキーは、魅力的なマテリアルの存在、大人との共同、お店に展示するといった環境設定だと考えています。「授業だから」、「つくらなきゃいけないから」といった受動的な制作ではなく、「自分がやりたいから取り組む」、「依頼を引き受けたらにはいいものをつくりたい」、という主体的な想いをもった取り組みになります。そのきっかけをつくる上でも、「造形遊び」の活動が必須なのです。

5・6時間目の授業の導入では、haishop店員よりさらに追加の提案を子どもたちに伝えました。

  • 先週の制作の様子を見て、お店で展示するだけではなく、販売できると思った。販売してみない?
  • 価格(お金)はものに対する感謝の気持ち。価格は、お客さんに決めてもらうスタイルでどうだろう?
  • 売り上げの使い道はみんなで考えて欲しい。

これを受けて、子どもたちのモチベーションはさらに上がっていきました。ただ、中には販売したくない子もいます。その場合は“非売品”とし、販売せずに並べることにして、「売りたくない」という意思も大切にしました。子どもたちが想いをもって選択できる設計が大切なのです。

お店に展示・販売するために、梱包する箱も用意。デザイナー(工藤陽介氏)に依頼をしたこの箱はリサイクル材で制作したオリジナルの箱。箱をつくり、作品を仕上げ、梱包し、誰かに渡したい“作品(おみやげ)”、もしくは自分のための“作品(おみやげ)”が完成しました。

これらの“おみやげ”(作品)は2021年7月から9月まで渋谷スクランブルスクエア14階「haishop」にて展示販売されました。展示・販売されると、“おみやげ”がお客さんの手に渡りました。この販売にあたり、授業に参加してくれたhaishopの店員が、実体験として子どもたちの制作プロセスをお客さんに伝えました。そのプロセスや、ストーリーがお客さんの心を動かすのです。また制作プロセスは、ドキュメンタリー映像として記録し、店内やWebで公開しました。

この授業の設計において、最初から「作品を出展します」と言うこともできました。目的を先に提示し、その為に制作していく。そうすれば2時間分短縮して、この取り組みを実施できたかもしれません。それでも②の「造形遊び」のフェーズは、決して削ってはいけない時間です。子どもたちがマテリアルに触れ、そこから思いのままに発想や構想を繰り広げられること、大人と子どもが共創し、目線が合わせられること。これらの効果を「遊び」はもたらしてくれるのです。

新年あけましておめでとうございます。2023年がはじまりました、今年も山内先生は子どもたちと一緒に、様々なことにチャレンジしていきます。