「鉄則」の目的を理解し、よりよい授業づくりに結びつける 教材分析の 《3つの鉄則》

「鉄則」の目的を理解し、よりよい授業づくりに結びつける 教材分析の 《3つの鉄則》

今回取り上げる、6年生の説明文教材「『鳥獣戯画』を読む」は、基本三部構成がとらえにくい教材です。 このような文章をどう読み、どのような授業にしていくのか、一緒に考えてみましょう。

  • 鉄則1 基本三部構成をとらえる
  • 鉄則2 話題・課題をとらえる
  • 鉄則3 まとめ・主張・要旨をとらえる

※鉄則の概要については「第1回 教材分析の《3つの鉄則》」を参照

これまで学んできた鉄則1~3は、多くの教材分析に用いることができますが、中にはそのままでは分析しにくい教材もあります。
そんなときには、「何のための鉄則なのか」という「目的」を思い出し、教材の特徴をとらえつつ、その目的を達するために取り組んでいくことが大切です。

これまで1年を通して、鉄則1として

「まず、その文章の基本三部構成をとらえましょう」
「〈はじめ〉〈なか〉〈おわり〉に分けましょう」

と申し上げてきました。
しかし、「『鳥獣戯画』を読む」には、〈はじめ〉と〈なか〉の明確な区切りがありません。

このような文章には「基本三部構成をとらえる」という考え方は使えないのでしょうか。
基本三部構成をとらえるのは、その文章の構造を明らかにすることによってその文章の特徴を明らかにし、文章全体をまるごととらえるためです。「3つに分ける」こと自体が目的なのではありません。

「基本三部構成がとらえにくい。特に〈はじめ〉と〈なか〉の区切りがない」

そういった特徴を明らかにすることも「基本三部構成を読む」という鉄則の中に含まれているのです。

〈はじめ〉と〈なか〉の区切りがない「『鳥獣戯画』を読む」ですが、〈おわり〉にあたる部分は明確です。
⑦段落までは鳥獣戯画に描かれていることについて述べていますが、⑧、⑨段落では鳥獣戯画がつくられた時代や、日本文化の特色などについて述べられています。 ①~⑦段落までが鳥獣戯画についての具体であるのに対し、⑧、⑨段落は抽象であるということができるでしょう。 したがって、「『鳥獣戯画』を読む」は、次のような構成になっているとわかります。

①~⑦段落……鳥獣戯画についての具体
⑧、⑨段落……鳥獣戯画についての抽象

一般的に説明文の「話題・課題」は、〈はじめ〉の部分で示されています。
しかし鉄則1で述べたように、「『鳥獣戯画』を読む」では明確な〈はじめ〉の部分がありません。
しかし、それ以外にも「話題・課題」をとらえるための手がかりがあります。
その一つが「題名」です。
説明文の「題名」には、次のようなものがあります。

  • 説明内容の「題材」を題名としたもの
  • 説明内容の「話題・課題」を題名としたもの
  • 筆者の主張を題名としたもの

ここで、「『鳥獣戯画』を読む」という題名を、問いの文にしてみましょう。

  • 「鳥獣戯画」の何を読むの?
  • 「鳥獣戯画」から何が読めるの?
  • 「鳥獣戯画」を読むと、どんなことがわかるの?

これらから、この説明文の話題は、「『鳥獣戯画』を読むことによってわかること」であるとわかります。

鉄則1で見たように、「『鳥獣戯画』を読む」の「まとめ」は、⑧、⑨段落です。
そのうち、「筆者の主張」は本文の最後の文「『鳥獣戯画』は、国宝であるだけでなく人類の宝なのだ。」であることは容易にとらえられるでしょう。
しかし、教材分析や国語の学習において、単に「筆者の主張」をとらえることができればよいというわけではありません。
筆者がそう主張する「根拠」も含めてとらえることが大切なのです。

「『鳥獣戯画』は、国宝であるだけでなく人類の宝なのだ。」という文を、もう一度詳しく見てみましょう。
国宝とは「日本の宝」です。つまり、「『鳥獣戯画』は日本だけでなく人類全体の宝だ」と主張しているわけです。 ⑧段落では「鳥獣戯画」について、日本の文化としての素晴らしさを述べています。
一方、⑨段落では、「世界を見渡しても」と、「人類全体」としての素晴らしさを述べています。
したがって、⑨段落で述べられていることが、「人類の宝なのだ。」と主張する根拠となっているといえます。

⑨段落は、六つの文で構成されています。

第一文 十二世紀に、これほど楽しくモダンなものが生み出されたのは驚くべきことだ。
第二文 絵が自然でのびのびしている。
第三文 描いた人は自由な心をもっていたに違いない。
第四文 当時の絵でこれほど自由闊達なものは、世界的にも他に見つかっていない。
第五文 祖先たちはこの絵巻を大切に守り、伝えてくれた。
第六文 だから「鳥獣戯画」は人類の宝だ。

このように整理すると、第一~五文が、第六文の根拠となっていることが見えてきます。
さらに詳しく見てみると、第一~四文は、いずれも「鳥獣戯画が自由闊達に描かれている」ことについて述べています。
また、第五文は、「鳥獣戯画が大切に守られてきた」ことについて述べています。
したがって、次のように表すことができます。

今回は、教材分析の鉄則1~3の考え方をもとに、鉄則の手順が当てはまりにくそうに見える文章に取り組んできました。
なお、ここまで①~⑦段落の中身についてはほとんど触れずに教材分析を進めてきました。
もちろん、実際の授業では①~⑦段落の中身に触れないわけにはいきません。

①~⑦段落の要点をまとめてみましょう。

①~⑦段落の要点

このように整理してみると、①、②、⑤~⑦段落は、「鳥獣戯画が『漫画の祖』『アニメの祖』とよばれる(③、④段落)理由を述べていることがわかります。 これらのことから授業では、次のような「問い」を設定することもできるでしょう。

どうして「鳥獣戯画」は、「漫画の祖」「アニメの祖」とよばれているの?

この問いを読みの方向とし、授業を進めることも可能でしょう。 ほかに、

どうして「漫画やアニメの祖」ではなく、「漫画の祖」「アニメの祖」と区別しているの?

という問いを設定し、筆者がどんな意図で「鳥獣戯画」の特徴を取り上げているのかを読んでみるのもいいかもしれません。

さらに、⑧段落の「日本文化の特徴」をとりあげ、

「日本文化の特徴」って、どんな特徴?

なども考えられます。

これまで1年間に渡り、説明文の教材分析の方法を学んできました。 最後に皆さんにお伝えしたいのは、この連載でとりあげた「鉄則1~3」は教材分析のための方法の一つであり、これが唯一無二のものではないということです。 そしてもう一つ、もっとも大切なことですが、「教材分析」はあくまでも、よりよい授業を組み立てていくための手段であり、「教材分析が目的ではない」ということです。 「教材分析ができた!」で満足するのではなく、そこからどんな授業を組み立てるのか、クラスや子どもたちの実態に合わせて考えてみてください。