「モノ」編 ② 大切なのは、何があるかではなくアイデア

「モノ」編 ② 大切なのは、何があるかではなくアイデア - 東洋館出版社

2023年現在、山内佑輔さんが取り組んでいるクリエイティブ・フィールドVIVISTOP NITOBEの運営。「出会い」をつくり「縁」が起きる場を構成する大切な3つの要素ヒト・モノ・コトそれぞれの視点からこの場を紹介していきます。

前回はVIVISTOP NITOBEそのものの「建物・空間」を紹介しましたが、今回は「モノ」編②として「道具・材料」について紹介します。

VIVISTOP NITOBEには、3Dプリンター、レーザーカッター、シルクスクリーンプリンター、真空成型機、デジタルミシン、カッティングプロッター、自動製本機などのテクノロジーツールが置いてあります。
また、VIVITAが開発したプロトタイピングツール「VIVIWARE Cell」や、アイデアを簡単に形にできるレーザーカッター用CADアプリ「VIVIWARE Shell」などを用意しており、誰でも気軽にデジタルファブリケーションに挑戦することができます。

ここは元々、新渡戸文化小学校の図工室だったところを改修しているので、電動糸鋸などの簡単な木工道具や、刷毛、筆、ローラーなどの描画材も揃っています。

VIVISTOP NITOBEではテクノロジーツールに目が行きがちですが、デジタルでのものづくりに特化しているわけではありません。ここで必要なのは、「これらの道具で何ができるか」ではありません。大切なのはアイデア、「あなたが何をしたいのか、何をつくりたいのか」これを大切にしています。

「つくりたい!」と思うものが浮かんできたなら、それを達成するためにVIVISTOPのクルーはこどもたちと一緒に考えます。必要な機材があれば購入することもありますし、他の場所で使わせてもらえるならそこまで行きます。レンタルできるものがあれば、それを借りることもあります。

『NO LIMIT』VIVISTOPで使われるキーワードの一つです。やってみたいことをとことん突き詰めていく、とにかく手を動かして形にしていく。それがこの場に込められた願いです。大切なのは、ここ何があるのかではなく、アイデアなのです。

ここでは材料が手に取りやすい場所に置いてあります。紙、木材、プラスチック、金属……思わず触りたくなってしまうようなもの、不思議なもの、馴染みのあるもの、ここを使う子どもたちの家庭から提供されたり、関係する大人から提供いただいたりと、様々なルートで集まってきます。その時々で、置いてある材料が変わるので材料との出会いも「縁」です。

このプラスチックパーツはVIVISTOP内のプリンターが故障してしまった際に「分解してみよう!」とその場にいたこどもたちと偶発的に活動が始まった時のものです。「これは使えそうだ!」と仕分けをして、材料コーナーに置かれることになりました。

また木材は、新渡戸文化学園と同じ中野区内にある企業SATO COMPANYさんの手がける木製パレットの製造過程で発生する、端材を活用しています。

SATO COMPANYとの出会いもまさに「縁」。中野区長を通じて新渡戸文化学園に紹介があったり、VIVITA JAPAN株式会社の社員と元々繋がりがあったりと、同時に複数のつながるきっかけがありました。こうなると僕は「縁」を感じざるを得ないのです。

SATO COMPANYの扱うパレットとは荷物を載せるための台で、製品の移動などの物流で活躍しています。SATO COMPANYは物流用のパレットはもちろんのこと、その可能性をさらに広げ、建築用資材、イベント会場設営、アウトドア、インテリア向けのさまざまなパレットを提案しています。

VIVISTOP NITOBEの環境や取り組みに共感いただき、パレットの製造過程で生まれる端材の利活用を一緒に考えていくことにしました。端材を提供いただくと早速、放課後の子どもたちの材料となり、木材で様々な木工の活動が生まれました。

こうした様子を報告することで双方手応えを感じながら、「では、次は……」と、小学校の総合的な学習の時間の「SDGs」をテーマにした学習で連携授業を実施したり、パレットを活用して文化祭の展示空間をつくったり、VIVISTOP NITOBEで開催したVIVITA ROBOCONの会場も一緒に制作しました。

2022年10〜12月には、「クリスマスに本屋さんをオープンしよう」というプロジェクトでも協働。

インターネットで古書を買い取り、販売するバリューブックスとも連携し、買い手がつかずに古紙回収に回る予定だった1千冊を提供いただきました。子どもたちは古書流通の世界を学びつつ、1人数十冊を選び、値段も自分たちでつけました。

バリューブックスは古書の買い取りを通じて社会貢献活動の団体に寄付する仕組みがあり、子どもたちはその仕組みを活用して、本を売って得た収益をそれぞれが選んだ団体に寄付することに。

クリスマス当日には「下北沢おやこつどい市」にて、自分自身の本屋を出展しました。

デザインや設計を考え、屋台の木材には「パレット」の端材などを利用して作り上げた、自分だけの本屋なのです。

SATO COMPANYとの出会いが「木材」というモノを通じて、人を繋げ、コトを生み出しました。
これも元々は「縁」で始まったこと。最初は、「下北沢で本屋を出展し屋台をパレットでつくる」なんて想像もしていないわけです。

VIVISTOP NITOBEという空間自体に縁を生む仕掛けがあり、そこに置いてあるモノもまた縁を生みます。
「アップサイクルマテリアル※」と呼ばれる材料を、なんとなく触っているだけで、「あ!いいこと考えた!」と動き出す子どもたちを何人も見てきました。
また、SATO COMPANYとのエピソードのように、モノがヒトを繋ぎ、コトが起きるケースもここにはたくさんあるのです。

モノとの出会い、ヒトとの出会い。アイデアとの出会い。これまでに体験したことない「何か」と出会うことで、縁が結ばれて、新しい世界を見ることができる。
VIVISTOP NITOBEとはそういう場所なのかもしれません。

※アップサイクル:本来であれば捨てられるはずの廃棄物に、デザインやアイデアといった新たな付加価値を持たせることで、別の新しい製品にアップグレードして生まれ変わらせること。