2019年度小学校最後の授業

2019年度小学校最後の授業

山内先生が図工の先生として、生涯忘れられないという授業があります。
前日夜に「翌日から春休みまで臨時休業」との発表があった2020年2月28日、2019年最後の授業日です。山内先生はどんな授業をしたのか教えていただきます。

その日は、元々1・2時間目が5年生、3・4時間目が6年生という時間割でした。
2020年2月28日は、大人にとっても子どもにとっても一大事の日。突然の休校を前に、状況説明や、諸連絡、返却物など、大忙しの1日です。1・2時間目から図工の授業をやっている場合ではなく、5年生の図工の授業は学級の時間へ変更。3・4時間目の6年生も、図工はできないだろうと思っていたのですが、担任の先生より「図工、やってください!」との依頼をいただきました。 これにはびっくりしながらも、ありがたく引き受けさせてもらうことにしました。

当然準備していた授業もありましたが、こんな日の授業ですから、図工の授業をどうするというよりも、小学校生活最後の1日として、この2時間をどう活用すればいいのだろうと、とても悩みました。子どもたちにとって大切な1日です。
そこで、思い切って授業の時間を子どもたちに任せることにしました。

図工室での授業がはじまった時から、伝え続けてきた図工の目標

自分でひらめくこと
他人をおどろかせること
みんなでおもしろがること

この3つが達成されれば何をしても構わない。最後の日、いい時間を過ごしてほしいと伝えました。 (この図工の目標については、また追って詳細を書く予定です。)

すると、すぐに数名が僕に代わって図工室の前に立ち、「あ!と他人をおどろかせること。これ、具体的に“誰か”を決めよう。ってもう1人しかいないでしょう。こんな日だもの、担任の先生を驚かせようよ」。

この提案が、「いいね!いいね!」と図工室に広がっていきました。
じゃあどうやって驚かせるのか、何をつくるか。担任へのサプライズ企画が立ち上がり、それぞれのアイデアでどんどん解像度が上がっていきます。
話し合いの末、帰りの会終了後にクラス全員で感謝を伝える大きなプラカードを掲げ、寄せ書きをプレゼントして「担任をびっくりさせよう!」という企画になりました。

図工室にあった材料や共用絵の具をつかってどんどん制作が始まります。互いの得意を発揮させながら、共に創り出していきます。

35人の学級です。全員がこの企画に没頭するかというと、実はそうでもありません。「なんでこんなことやるんだよー」と言う児童もいました。そんな児童たちにも寄り添い、僕は彼らとおしゃべりしました。次第に彼らも手が動き出します。結果的に、離脱したり、放棄したりする子はおらず、35人が最後まで制作を続けました。

企画は見事に大成功し、担任の先生は大号泣。最初反発していた男子児童は、嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねていました。 何人かは、僕と目があって「やったぜ!」というメッセージを送ってくれました。

これがこの子達との最後の授業。寂しいけれど、嬉しい、僕の忘れられない授業です。

この授業を記事にするにあたって、このクラスの教え子に当時の話を聞いてみました。

「授業を任せる、って僕から伝えられてびっくりしたり、戸惑ったりした?」

「特に驚いたり、戸惑ったりはなかったよ。山内先生の授業って、ずっと自由だったから。OK、任せて!って、みんなそんな感じだったよ」

2年以上前のことですが、今でもこんな風に話せるのはとても嬉しいし、ありがたいことです。

当日僕は「授業を任せる」と子どもたちに伝えたら、この子たちはそれを受けとってくれると信じていました。

思い返すとこんなエピソードもありました。

この子達が5年生だった頃、運動会当日の午後に雨が降り、午後の種目が平日に延期、運動会2日目として火曜日に行われ、運動会は午前中で終了。午後は通常授業となり、僕は5年生の授業が入っていました。

いつもは元気いっぱいなクラスなのですが、さすがに疲労困憊の様子。そんな子ども達を見て、僕は「休める場づくり」の提案をしました。「場ができたら、寝るなり、くつろぐなり、休んでくれよ」と。僕が授業冒頭に伝えたのはそれだけでした。

すると、「めちゃくちゃ元気じゃないか!!」とツッコミたくなる活発さで、新聞紙や、緩衝材、ビニール袋などを材料エリアから引っ張りだして、クッションやシートをつくり、図工室内や廊下、共有スペースに次々にリラックス空間を作り始めました。
「せんせーい、ここ最高だよー!ここにおいでよー!」と招待されて、僕も一緒になってすっかり休ませてもらいました。

「いやー、最高の時間をありがとねー!また休もうね!」と授業終わりに声かけられたのを今でも覚えています。

これらの授業は、どちらも本来計画していた内容があったものの、直前で急遽変更して取り組んだ事例です。僕がやりたい!と思って計画した授業プランは取り下げです。先生が自由になるためには、「〜すべき」「〜しなければならない」に捉われないことも必要なのです。

自由をつくるための計画が逆に自由を奪ってしまうことも少なくありません。僕は「いい授業をつくりたい」という想いももちろんありますが、その前提として「いい時間を過ごして欲しい」と思っています。

僕は授業を授業として閉じて考えず、子どもたちの1日の生活の中の一部として考えています。学校生活が時間で区切られてしまうのは、しょうがないことです。
でも例えばその日、クラスが行事に向けて盛り上がってるなら、それに関連する時間をつくりたいですし、逆に行事とは一旦距離をおいて違う活動を入れた方が良さそうなら、その時間をつくりたい。チームビルディングが必要であれば、そのねらいを持たせることもできるし、振り返りやビジョンづくりだってできちゃいます。

ただ、遊ばせるとか休ませるとか、放置するのではなく、造形的な視点を入れて、その時にタイムリーな課題を“授業”にできるのです。つくりながら考える。今の時代に大人でも必要な要素です。それが自然に実施できる、図画工作科は本当にすごい教科なのです。

こうした授業は、クラスの雰囲気をつかめるので、担任の先生の方が実は得意です。 図工専科教員のいない学校では、担任の先生が図工を担当しますが、クラスの子ども達のことをよく知っている先生だからこそ生まれる素敵な図工の実践をいくつも知っています。

クラスの子が、他の教科や授業、休み時間で生まれる「つくってみたい!」「やってみたい!」を、じゃあそれ次の図工の時間でつくろうか、となったり、図工の時間で教室の空間づくりをしてみたり。共につくるプロセスからクラスの雰囲気をつくるのにも活用できるのです。

こんな授業が毎回できるわけではありません。 でも、それができる教科だと知っておいて損はないでしょう。 図画工作科は学校生活の、学びの真ん中に存在できる教科なのです。