編んだ授業を、大人に伝える。具体編その2

編んだ授業を、大人に伝える。具体編その2

子どもたちと一緒に「授業を通じて、豊かな時間をつくる」ことに加え、大人にもその価値を伝え、学びの価値を高めていきたい。その想いで様々な活動を通じて大人に伝えてきました。大切なのは、「芸術・アートの重要性」ではなく「芸術・アートを手段とした教育の重要性」です。

「大人に伝える」ために行った5つのこと

紙面での伝達

ブログの活用

保護者会、個人面談期間などの展示と解説

大人向けの図工の授業

ドキュメンテーション映像の制作と公開

前回お伝えした1〜3に続き、今回は4の「大人向けの図工の授業」と、5の「ドキュメンテーション映像の制作と公開」について、お伝えしていきます。

大人に伝える、それは言葉や写真だけではなく、実際に体験いただくことも必要だと考えはじめました。そんな時に、保護者の方から「私たちも図工の授業を受けてみたい!」という声が上がり、PTA主催の特別講座で大人向けの図工の授業を開催することになりました。

作品展の開催年度では、子どもたちが取り組んでいることと同じような内容に設定し、子どもたちの楽しさ、悩みや難しさの追体験ができ、より一層作品展での鑑賞に深みが出るように工夫しました。また、会話しながら僕の日々の授業への想いや、子どもの様子なども共有でき、非常に有意義な時間でした。参加してくださった方からの満足度は大変高く、「次はいつ!?」と尋ねられるほどでした。

この講座に参加できるのは、限られた人数になります。それでも実際に体験していただくことで得られるものは大きいです。ここに参加していただいた方が、「図工は面白いし、今学ぶべき内容として価値があるわ!」と他の人に伝えることで、大きな波が起こります。普段なかなか保護者との直接的な接点がない専科教員だからこそ、ここで知り合える保護者の方はとても貴重で、仲間のような意識をもってその後も接することができました。

授業での子どもの様子を写真に撮り、授業で聞こえる子どもの声を記録し、それを編集し「ドキュメンテーション映像」として公開する。この取り組みを2014年から毎年実施してきました。保護者会開催時の展示に合わせて映像を流したり、個人面談の待機中に見られるようにもしました。また、2年に一度、学校行事としての作品展(展覧会)を開催する際には、展示する作品に合わせて、1学年2〜4本のドキュメンテーション映像を制作し公開しました。

この取り組みは大変好評でした。
公立小在籍時に3回の作品展を開催し、都度その行事を通じて、プロセスにこそ大切な学びがあることを伝え続けてきました。その大きな力になってくれたのがこの「ドキュメンテーション映像」です。

2015年度、僕が担当したはじめての作品展では、
「展覧会が変わった!」
「面白くなった!」
「ドキュメンテーション映像がすごい良い!」などと、開催後にたくさんの声をいただきました。この年は、これまでの作品展からの変化に対する反応が一番多かったと記憶しています。

2年後の2017年度、2回目の作品展では、
「プロセスの大切さがわかった。」
「図画工作科の重要性がよくわかる。」
「作品の裏にある子供の頑張りが伝わった。」など、作品展をご覧いただいた大人の感想がより“プロセス”への評価へとシフトしているのを感じました。4年間必死に伝え続けてきたことが、届いた!と感じた瞬間でした。

そして2019年度の、最後の展覧会では、
「いつも素敵な授業をありがとう。」
「子どもがいきいきして取り組んでいる授業が見える」
「こういう授業こそ、今必要だ。」
と、作品や映像から、授業そのものに注目いただき、 大人の受け止め方が一層深まっているのを強く実感したのです。最後の年の感想は、「図画工作科が大事」というよりも、「図工的な学び方の重要性」を訴えてくださる方が大変多く、教科を越えて、学び方、授業の在り方として伝えることができたのです。ただの作品展でなく、これは“学び”を伝える「学び展」ではないかとさえ感じました。

作品展においては毎回抱える悩みがありました。それは、作品展がある年は、そこに飾ることができる作品、「見栄えのするもの」だったり「大きさ」「色彩」などあらゆる部分で、大人の都合で制約がかかり、図工の授業そのものを変えてしまうことです。
先に「こういうものをつくらせよう」と作品のイメージが決まることがほとんどではないでしょうか。先生が「やってみたい!」という授業をつくることよりも、作品展に展示するにふさわしい作品を子どもたちに作らせることの方が優先される状態になります。先生の自由も、結果的に子どもの自由もなくなってしまうのです。

2019年度では、その“当たり前”を崩すべく、作品展のために作品をつくる授業はやめました。作品展があるから授業をつくるのではなく、目の前の子どもたちとのやりとりを大事にして、ひとつひとつの授業をつくってゆきました。
vol.9で紹介した「さくらの森再生プロジェクト」もそのチャレンジの一つです。
作品展で公開することを決めていたものの、授業をスタートした時点では何が生まれるのか、公開できるものになるのかも全く想像できませんでした。
作品のみで魅せようとしたら、非常に難しいのです。
それでも6年間在籍する中で、プロセスの重要性を訴え続け、

  • 図工は作品をつくるための教科ではない
  • そのプロセスが大事
  • プロセスの中に学びがたくさんある
  • その学びが起きている現場をリアルに届ける

この認識が学校の先生をはじめ、保護者や、地域の人にも、伝わってきた感覚がありました。だからこそ、最後まで思い切って僕と子どもたちの「やってみたい!」「やってみよう!」を貫き通せたのだと思います。そして、その様子もまたドキュメンテーション映像を通して、しっかりと伝えることができました。

この2019年度の作品展では2000人を超える来場者にお越しいただきました。
僕は、お昼ご飯を食べるのも忘れて会場に立ち、たくさんの方とお話しました。そこで保護者の方とお話しすることで、子どもたちが家に帰ってから、家の人に図工の授業のことをたくさん伝えてくれていた、ということを多くの保護者から教えてもらいました。
子どもが「家に帰って話したくなる」授業。そんな授業をつくれていたと知ることができて僕もとても嬉しかったですし、保護者の方にとっては、家で話をしてくれた、そんな様子を映像として見ることができ、とても嬉しく、よく分かったという声をたくさんいただきました。

「図工は作品をつくるための教科ではなく、そのプロセスが大事で、その中に学びがたくさんある」これがしっかり大人に伝われば、子どもの作品の出来に左右されることなく、出来栄えや技術にこだわるのではなく、本質的な学びの場をつくることができるのです。それも“楽しい!”とともに。

公立小在籍時のドキュメンテーション映像は、個人情報保護の観点から公開することはできませんが、プロセスを伝える意識は今もなおずっと僕の活動とともにあります。
現在、新渡戸文化学園に移ってからも、各活動のプロセスを公開していますのでぜひご覧ください。