「対比型」板書から始まる言葉の学び

「対比型」板書から始まる言葉の学び

教材:「モチモチの木」 (光村図書3年/全9時間)
実践者: 岡 雅昭先生 (兵庫県・公立小学校)
本時のねらい:①物語を「一文で書く」ことを通して、作品全体の内容をとらえる。
②物語のおもしろさに着目することを通して、「中心人物の変容」を読む。
③「中心人物の変容」から作品のテーマをとらえ、自分なりの言葉で表現する。

第1時の板書写真
第2時の板書写真
第3時の板書写真
第6時の板書写真

沼田先生:Q:岡先生は今回、主に「対比型」の板書を活用して「モチモチの木」の実践をしていますね。どうして「対比型」の板書を用いて授業を進めようと思ったのですか?また、「対比型」の板書に込めた子どもたちの学びに対する期待はありますか?

岡先生:A:「対比型」の板書を用いた理由としては、「モチモチの木」の「教材としてのおもしろさ」を子どもたちが感じるのに一番適していると考えたからです。文学の授業を考える時には、その「教材のおもしろさ」はどこにあるのかを考え、子どもたちがそのおもしろさに触れられることを大切にしながら単元を構成しています。
「モチモチの木」は、「夜中に一人でせっちん(しょんべん)に行けず、じさまについていってもらうおくびょうな豆太」に始まりますが、終末でも同様に「おくびょうな豆太」の姿が描かれています。この2つの姿から、「中心人物は変容していないのでは?」という問いが立ち、そこを追究していくところに「教材のおもしろさ」があると考えました。「豆太は変わったのか?」という問いを柱に単元を進める中で、「変わった」「変わっていない」という2つの考えを対比させて板書をまとめました。その中で、子どもたちが「中心人物の変容」を読み取り、作品のテーマに迫っていく学びができることを期待して学習を進めました。

単元計画

「比べる」ことで見えてくる世界
「豆太は何が変わったのでしょう?」という問いであれば、子どもたちは「変わった部分」にしか目はいきません。「変わったのかな?変わってないのかな?」と対になる考え方を同時に提示することで、思考の幅は大きく広がります。さらに、学習課題を考える際には、一問一答ではなく、一問多答となる問いを意識することで、より子どもたちの解釈を引き出すことができます。私の恩師もよく「逸問多答」(優れた問いから多くの答えが生まれる)という言葉を使っていました。問い一つで学びの姿は大きく変化します。

沼田先生:Q:文学の授業において「対比型」の板書を考える時、岡先生は何と何を対比させることを意識していますか?授業づくりのコツはありますか?

岡先生:A:対比させるものとしては、大きく分けて2つ意識しています。 1つ目は、「AかBか?」という発問に対する子どもたちの考えです。今回の単元では、「豆太は変わったのか?」「豆太は勇気のある子どもになれたのか?」「来年の霜月二十日のばん、豆太は、山の神様のお祭りを見ることができるか?」がその発問にあたります。「来年の……」の発問では、自分の考えを形成するためには全文を通して根拠を見つける必要があることを助言することによって、作品を丸ごと読む姿につながると考えて設定しました。

第5時の板書写真

2つ目は、「中心人物」と「対人物」の対比です。「モチモチの木」では、「中心人物=豆太」「対人物=じさま」と捉え、「豆太が勇気を出せたのは◯◯◯のため。◯◯◯は豆太?じさま?」という発問を投げかけて対比させました。どの文学教材でも、対人物は中心人物の変容に大きな影響力をもつ存在です。それらを対比させることで中心人物の心情や行動の変化の因果関係が浮き彫りになり、作品のテーマにもせまりやすくなります。「モチモチの木」では、「豆太」と「じさま」を対比させることによって、「じさま」の「豆太」に注いできた愛情があるからこそ、「豆太」の行動は変容したという因果関係が見えてきました。

第4時の板書写真

文学の授業「何を対比させるのか?」
岡先生の述べている2点以外にも、文学の授業では以下のような視点で対比を用いることができます。例えば、「中心人物に影響を与えた脇役Aと脇役B」「登場人物の人物像として考えられる◯◯と△△」「お気に入りの場面」「物語の最初と最後」「中心人物と読者」「作者と読者」等です。この他にもまだまだ「対比」をきっかけに物語の魅力を引き出す視点は考えられそうです。この視点をベースにしながら、問いづくりに取り組むと作品の世界をどんどん広げることができます。そして、不思議と広がりの中で、ゆっくりと教材解釈の深まりも感じることができるでしょう。まずは「対比」を入口に授業を考えてみましょう。

沼田先生:Q:これまでおそらく「対比型」の板書以外でも文学の授業はされてきたと思うのですが、他の板書と「対比型」の板書の違いはどんなところにありますか?子どもたちの学びの様子の違いを教えてください。

岡先生:A:他の板書と「対比型」の板書の違い(メリット)は、大きく分けて3つあると考えています。 1つ目は「全員参加を促すことができること」です。「対比型」の板書と「選択型の発問(Which型課題)」はセットになることが多いです。考えを形成することが苦手な子も、選択肢を与えることで考えをもつことが容易になります。そこから、子どもたちの考えの理由を板書にまとめることで、自分以外の考えにも触れることができ、考えの「広がり」につながります。 2つ目は「つながりが見えること」です。対比させた考えの中には、共通点や反対の意味を表すキーワードが出てきます。それらを矢印や線でつなげることによって、拡散した意見を収束することができます。4時間目の板書では、①「豆太」がこれまで「じさま」に大切に育ててもらったこと、②だからこそ「じさま」を助けたいと思えたこと、③その思いから「勇気」が出たこと、という具合に、対比させた考えを矢印でつなげたことで、豆太の勇気が出た理由が見えてきました。 3つ目は「気付きを生み出すこと」です。上記の通り、子どもたちの意見をつなぐことによって、様々なキーワードが浮き彫りになります。その際、新たな問いを子どもたちに投げかけることで、考えに「深まり」が生まれます。同様に4時間目の板書では、「豆太」と「じさま」はお互いにどのような気持ちをもっているかを問いました。様々なキーワードを整理する中で「じさまも豆太に感謝している」という意見が出ました。これは目から鱗の「気付き」でした。さらに「なぜ?」と問い返すことによって、「豆太」と「じさま」のより深い関係を実感することができました。

「広がり」から「深まり」へと向かう子どもたちの学び
これまでのWeb連載のワンポイントでも何度も触れてきた「広がり」と「深まり」です。板書を「対比型」にすることで、子どもたちの板書を見る目は「右から左」へと流れるだけではなく、「上下左右」に行き来するようになります。新しい情報が出る度に、これまで可視化された言葉と比べたり、つないだりしながら学びが進行します。時には、一度立ち止まることもあるかもしれません。でも、この立ち止まりも大切な学びの姿です。この「比べる」「つなげる」「立ち止まる」を引き出すことで、学びは「広がり」から「深まり」へと進んでいきます。

沼田先生:Q:一見、「対比型」の板書はシンプルで、考えやすそうに思えますが、ただ比べるだけでは子どもたちの学びは深まりませんよね。岡先生が「対比型」の板書の授業を考える上で、難しいなと思う点はどのようなところですか?

岡先生:A:「対比型」板書を考える上で難しいと思う点は、これまで述べたように対比させた考えを「つなげる」こと、そして「気付きを生み出す」部分です。「中心人物」と「対人物」を対比させたり「選択型の発問(Which型課題)」を投げかけたりすることによってある程度の意見は出ますが、なぜ対比させるのかという意図が明確でなければ、拡散された意見をつなげることが難しくなります。「たくさん意見が出て良かった」というだけでは、授業の本質に迫ることはできません。あくまで対比させることは「手段」であり、「目的」ではありません。大切なことは、その作品の「教材としてのおもしろさ」がどこにあるかを考えて(素材研究)単元のゴールを設定し、ゴールに迫るためにはどのように単元を構成すれば良いのかを考える(教材研究)ことだと考えています。ゴールイメージをもつことによって、その1時間の中で子どもたちの中に生み出したい気付きや抽出したいキーワードが明確になります。その「目的」を達成するための「手段」として、板書や発問を考えることが大切だと思います。そこで私は「対比型」板書を多用するのですが、授業が終わってから「対比型」板書が適してなかったと感じることもあります。だからこそ、「目的」に応じた「手段」として板書を位置付け、様々な板書のバリエーションを学んでいかなければならないと感じています。

対比型」板書から、他の板書のバリエーションへ
「対比型」の板書は、思考の入り口がシンプルなので、子どもたちにとって考えやすい板書なのではないでしょうか。また、教師にとっても、子どもたちの発言を聞きながら整理しやすい板書と言えます。だからこそ、大切なことは「もう一歩思考を深める工夫」をもっておくことです。そのためには、「比較」の思考から「関連付け」や「類推」といった、より高次な論理的思考力を引き出す板書の型も視野に入れておく必要があります。引き出しを増やすことで、より柔軟な授業づくりが可能になります。

沼田先生:Q:最後になりますが、岡先生は、教員16年目の時に「板書に力を入れよう!」と決意し、実践に取り組み始めたと聞きました。実践に取り組む中で板書にはどのような力や可能性があると感じていますか?

岡先生:A:板書には3つの「つながり」を生む力・可能性があると感じています。 1つ目は「子どもと教師のつながり」です。整理された見やすい板書がかけるようになると、子どもたちは教師がかく板書を楽しみにしてくれます。もちろん、見栄えだけではいけないと思いますが。板書は、子どもたちの学習意欲の向上にもつながる部分があるのではないかと考えています。
2つ目は「子どもと教材のつながり」です。板書の構図を工夫することやあえて余白をつくることなど、板書にしかけを仕組むことによって子どもの思考が促されます。すると、根拠を求めて教材を読む意識が高まり、読みの深まりが生まれます。 
3つ目は「子どもと子どものつながり」です。板書に子どもの意見をかくことによって、全員がその子の考えに触れることができます。またその意見をきっかけとして、さらに新たな意見が生まれます。板書を通して子どもたちの考えを共有することは、ともに学び合う学級風土を生み出します。「授業で学級をつくる」とも言われますが、板書はその一助となる可能性を秘めていると感じています。

「つながり」の中で育つ言葉
私も板書を通じた「つながり」のおもしろさに日々、感動しています。子どもたちの学びがつながる時、教師の想像を超えた言葉が生み出されます。これこそ、「つながり」の中で育つ言葉、他者とのかかわりの中で育つ言葉と言えるでしょう。さらに、ここにICTの力が加わることで「つながり」の幅はもっと広がります。これまでは、一部の考えが発言によって共有されることが中心でした。それが、画面を通して学級全体、一人ひとりの思考を同時に共有することができるようになりました。一人ひとりに合わせた形で「つながり」を生み出すことができるようになったのです。これは、一人一台端末が生み出した大きな成果の一つです。

岡先生のチャレンジ精神みなぎる実践に多くのことを学ばせていただきました。「対比型」の板書は、経験年数の少ない若手の先生でも比較的取り組みやすい板書のバリエーションです。ぜひ、ここを入り口として板書が引き出す子どもたちの言葉のおもしろさを実感していただけたらと思います。そして、もう一歩踏み込んだ「つながり」「立ち止まり」等の場を設定することで、思考の深化へと子どもたちを誘いましょう。シンプルだからこそ、奥深いのが「対比型」板書です。

〈参考文献〉

桂聖、N5国語授業力研究会(2018)『「めあて」と「まとめ」の授業が変わる「Which型課題」の国語授業』東洋館出版社