叙述に沿って読むことで読みの精度を高め、より深く読む
今回取り上げるのは、物語教材の定番中の定番「ごんぎつね」です。
7月に行ったオンラインセミナーでも本教材を扱いました。今回はその復習と補足も兼ねて整理します。
叙述に沿った読みで、子どもたちが陥りやすい「思い込み」によらない読みを実現しましょう。
【物語の教材分析の《3つの鉄則》】
- 鉄則1 基本三部構成をとらえる
- 鉄則2 「設定」をとらえる
- 鉄則3 中心人物の変容から主題をとらえる
※鉄則の概要については「第1回 教材分析の《3つの鉄則》」を参照
物語を読むときに、読者としての想像が先走り、そこに書かれていないことを前提とした「思い込み」の読みに陥ってしまうことがあります。
また、書かれていることを読み落としたり、表面的な読みにとどまってしまうこともあります。
国語の学習における物語の読みでは、そういったことを排除し、そこに書かれていること、つまり「叙述」に沿った読みを行うことが大切です。
鉄則1 基本三部構成をとらえる
全体を俯瞰し、物語の中心となる部分と、そこに結びつく設定や伏線が描かれている部分を明らかにする。
この物語は、1~6の6つの場面に分けて描かれているので、基本三部構成はとらえやすいでしょう。
復習すると、物語の基本三部構成とは
〈はじめ〉…設定
〈なか〉 …山場
〈おわり〉…結末
です。
「ごんぎつね」を、1~6の場面をもとに基本三部構成をとらえると次のようになります。
設定…1、2場面(ごんの境遇と対人物である兵十とのかかわりについて)
山場…3、4、5場面(うなぎのつぐないのくり返し)
結末…6場面(兵十に打たれる悲劇とごんの思い)
私は6場面全体を結末の部分とする大きなとらえ方をしました。
もし、この作品のクライマックスが「ごんは、ぐったりと目をつぶったまま、うなずきました。」の一文であることを根拠とすれば、6場面の最後の「兵十は、火なわじゅうをばたりと取り落としました。青いけむりが、まだつつ口から細く出ていました。」だけを結末と考えることもできます。
鉄則2 「設定」をとらえる
設定をしっかりととらえ、中心人物がおかれた境遇を明らかにする。
鉄則1でとらえた基本三部構成から、この物語の「設定」が描かれているのは1、2場面であることがわかりました。
ただ、1場面と2場面は共に「設定」が描かれていますが、その役割は違っています。
《1場面に描かれている設定》 1場面では、ごんがどんなきつねであるか、どんな生活環境で暮らしているのかが描かれています。特に重要なのは以下の叙述です。
ごんは、ひとりぼっちの小ぎつねで、しだのいっぱいしげった森の中に、あなをほって住んでいました。
シダは湿気のある薄暗いところに生える植物です。ごんは、そんなジメジメとした場所に「ひとり」で生活しているわけです。
この1場面に描かれているごんの境遇についての設定をとらえることができているかどうかによって、どうしてごんはいたずらをしていたのかということについての読みが、大きく異なってきます。
《2場面に描かれている設定》
2場面では、兵十のおっかあが死んだことをごんが知り、「あんないたずらをしなけりゃよかった。」と悔やむ様子が描かれています。
この2場面を「設定」ととらえることに違和感を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、2場面でのごんの後悔は、3場面以降でごんがつぐないをはじめるきっかけであり、伏線であると考えられます。
これらのことから、「2場面までが『設定』である」と私はとらえています。
さて、2場面でごんは、兵十のおっかあが死んだことを知った日の夜、穴の中で「兵十のおっかあは……」と考え始めます。この「 」内のごんのモノローグを、詳しく見てみましょう
1. 「 」内のごんのモノローグを、文に分ける。
①兵十のおっかあは、とこについていて、うなぎが食べたいと言ったにちがいない。
②それで兵十が、はりきりあみを持ち出したんだ。 ③ところが、わしがいたずらをして、うなぎを取ってきてしまった。
④だから、兵十は、おっかあにうなぎを食べさせることができなかった。
⑤そのまま、おっかあは、死んじゃったにちがいない。
⑥ああ、うなぎが食べたい、うなぎが食べたいと思いながら死んだんだろう。
⑦ちょっ、あんないたずらをしなけりゃよかった。
2. ①~⑦の文を、「ごんが考えたこと」と「ごんが実際にしたこと」に分ける。分ける際には、文末表現を根拠とする。
「ごんが考えたこと」…………①②④⑤⑥
「ごんが実際にしたこと」………③⑦
「 」内のモノローグの内容のほとんどは、ごんが考え、想像したことであるとわかります。
このことから、
・ごんが兵十のおっかあを死なせたわけではない。
・3場面以降のごんのつぐないは、ごんの「思い込み」から始められた。
ということをしっかりとらえます。この読みが、この後の山場の読みに大きく影響を与えていきます。
《+OnePoint》文末表現
文章はいくつかの文が集まってできていますが、それぞれの文の役割は、文末の表現から判断することができます。
文末表現 | 文の役割 |
〜でしょうか。 〜ですか。 | 問いかけ |
〜です。 〜のです。 〜だ。 | 断定 |
〜からです。 〜だからです。 | 理由 |
〜ではありません。 〜ない。 | 否定 |
〜たそうです。 〜だという。 | 伝聞 |
〜らしい。 〜だろう。 | 推量 |
〜である。 〜なければならない。 | 主張 |
〜ね。 〜みよう。 | 共感 |
鉄則3 中心人物の変容から主題 をとらえる
クライマックスの一文を明らかにすることによって、中心人物の変容をとらえる。
物語における中心人物の変容点は、「クライマックス」です。したがって、クライマックスの一文を特定することで、中心人物の変容がとらえやすくなります。 クライマックスの特定にはいくつかの方法がありますが、「ごんぎつね」では、「クライマックスは、視点の転換のすぐ後にある」という条件で特定することができます。 「ごんぎつね」は、一貫してごんの視点で描かれています。ところが、6場面で視点はいったん兵十に移り、次の一文で再びごんにもどります。
ごんは、ぐったりと目をつぶったまま、うなずきました。
したがってこの一文が「クライマックス」の一文であるととらえることができます。
このことから、中心人物のごんの変容は「兵十に撃たれたこと」ではなく「『お前だったのか』と気づいてもらえたこと」であることがわかります。 これらのことから、「ごんぎつね」を一文で書くと、次のようになります。
ごん が 兵十に撃たれる ことによって、 兵十に自分のことを気づいてもらう 話。
※物語を一文で表すことについては、このWebマガジンの第3回で説明しています。
今月号のまとめ
「ごんぎつね」は、子どもたちの「思い込み」が多く生じやすい教材です。
物語の学習では、「叙述に沿った読み」、つまり「その教材文に『書かれていること』を根拠として読んでいく読み」が非常に重要です。
「ごんぎつね」は、そのことがよくわかる教材です。
3~6場面でくり返されるごんのつぐないについて子どもたちに、 「ごんは、なぜ、こんなにもつぐないをするのだろう?」 と投げかけると、「自分のいたずらによって、兵十のおっかあを死なせたから」という声が多く挙がります。
しかし、鉄則1~鉄則3に基づいた教材分析を行ってくると、ごんがいたずらをくり返していたことの心理にまで踏み込んで考えることができます。
授業では、3場面の次の叙述から、ごんの気持ちが「つぐない」だけではないことに気づかせることができます。
兵十が、赤い井戸のところで麦をといでいました。
兵十は、今までおっかあと二人きりで、まずしいくらしをしていたもので、おっかあが死んでしまっては、もうひとりぼっちでした。「おれと同じ、ひとりぼっちの兵十か。」こちらの物置の後ろから見ていたごんは、そう思いました。
ごんは物置のそばをはなれて、向こうへ行きかけますと、どこかで、いわしを売る声がします。
「自分と同じ」ひとりぼっちであることにごんは心を動かされていることがわかります。
設定の部分の「ひとりぼっち」と重ねてとらえることも大切でしょう。
さらに、ごんが行きかけた「向こう」とはどの方向なのかにも着目させます。
「向こうとは、兵十から離れる方向」ととらえる子どもが多くいますが、これも「ごんが、わざわざ兵十に見つかる方向に行くわけがない」という思い込みです。
「向こう」とは、「こちらの物置」に対しての「向こう」であると考え、「兵十に近づく方向」であるととらえるべきでしょう。
ごんは、「おれと同じひとりぼっちの兵十」に近づこうとしたわけです。
このごんの気持ちをしっかりとらえておくと、ごんの兵十に対する思いの強さがわかります。
しっかりとした教材分析に基づいた「叙述に沿った読み」の大切さがおわかりいただけたでしょうか。