物語文「スイミー」教材分析の《3つの鉄則》

物語文「スイミー」教材分析の《3つの鉄則》

「作者の思い」をとらえる読みの入門に
今回取り上げるのは、2年生で学習する物語「スイミー」(光村図書2年上)です。
ストーリーを把握するだけでなく、作者の思いをとらえる読みの力を育てていきましょう。

  • 鉄則1 基本三部構成をとらえる
  • 鉄則2 「設定」をとらえる
  • 鉄則3 中心人物の変容から主題をとらえる

※鉄則の概要については「第1回 教材分析の《3つの鉄則》」を参照

前回は、2年生の説明文の学習で、「筆者が、何を説明するために、どんな事例を挙げているのかを読み取ること」の大切さを学びました。
今回は同じ2年生の物語の教材の読みについて考えてみましょう。

説明文と同様に、まずは全体を3つに分けてみましょう。
物語は「設定の部分」「山場の部分」「結末の部分」の3つに分けることができます。 「スイミー」を3つに分けると、次のようになります。

<設定の部分>

冒頭~「こわかった。さびしかった。とてもかなしかった。」まで。

<山場の部分>

「けれど、海には、すばらしいものが……」から「ぼくが目になろう。」まで。

<結末の部分>

「あさのつめたい水の中を、……」の一文。

物語は、冒頭から結末までの全体によって描かれています。
したがって、特定の場面だけを取り出して深く読んでも、その物語を「読んだ」ことにはなりません。取り出す部分が、たとえ「山場」であったり、「結末」であったりしても、です。
物語全体をまるごととらえるためには、まずは物語全体を俯瞰する読みが必要です。
全体を3つに分けることによって、「スイミー」という物語のおおまかな流れや構造を把握します。

《+OnePoint》技法と効果

 

全体を俯瞰した読みでは、物語全体の構成をつかむのと同時に、叙述の特徴にも注目しましょう。
叙述には、様々な「技法」があり、それが「効果」を生んでいます。
どのような技法が使われているのかをとらえることから、設定や作者の意図も見えてきます。
「スイミー」では、次のような技法が使われています。

〇体言止め(その語を強調し余韻・余情を生む。リズムを変化させる。)
「名前はスイミー。」
「からす貝よりまっくろ。」
「にじいろのゼリーのようなくらげ。」
「水中ブルドーザーみたいないせえび。」 など

〇倒置法(感動や驚きを強調する。)
「にげたのはスイミーだけ。」
「スイミーはおよいだ、くらい海のそこを」 など

〇比喩(性質・状態を強調しイメージを広げる。)
「水中ブルドーザーみたいな」
「こんぶやわかめの林」
「やしの木みたいないそぎんちゃく」 など

〇リフレーン(リズム感を生む。語り手や人物の気持ちの高まりを表す。)
「こわかった。さびしかった。とてもかなしかった。」
「いろいろかんがえた。うんとかんがえた。」 など

「設定」とは、せまい意味では物語の登場人物や、舞台となる時、場所などのことです。
一方、「物語とは、中心人物の変容を描いたもの」ととらえると、「中心人物の変容前の様子」が描かれている部分とも言えます。
物語の学習では「中心人物が、何によって、どう変容したのか」をとらえることが大切ですが、そのためには「変容する前はどうだったのか」もしっかり把握しておかなければなりません。
また、設定の部分には、「伏線」も描かれています。
物語においては「伏線」の役割も重要です。
伏線は、中心人物の変容のきっかけや原因になることも多いからです。
中心人物の変容は物語の主題とも大きく関係していることを考えれば、伏線をしっかりとらえておくことが、それだけ大切だということがわかるでしょう。

「スイミー」では、設定の部分で次のようなことが描かれています

  • 「小さな魚のきょうだいたちが、たのしくくらしていた。」
  • 「一ぴきだけは、からす貝よりまっ黒。」
  • 「およぐのは、だれよりもはやかった。」
  • 「にげたのはスイミーだけ。」

これらの記述によって描かれたスイミーの特徴や境遇は、物語のその後の展開の伏線となっています。 例えば「広い海のどこかに……小さな魚の兄弟たちが……たのしくくらしていた。」という一文は、次のようにつながっていきます。

広い海のどこかに……小さな魚の兄弟たちが……たのしくくらしていた。    ↓ 小さな赤い魚たちを、一ぴき残らずのみこんだ。    ↓ 「出てこいよ、みんなであそぼう。……」 「だめだよ。大きな魚に食べられてしまうよ。」 「だけど、いつまでもそこにじっとしているわけにはいかないよ。なんとかかんがえなくちゃ。」    ↓ あさのつめたい水の中を、ひるのかがやく光の中を、みんなはおよぎ、大きな魚をおい出した。

これらを読むと「スイミー」が新しいなかまたちと協力して大きな魚に立ち向かおうとしたことの背景には、「以前の幸せな生活を、大きな魚によって奪われた」という悲劇があったことが伏線となっていることが見えてきます。 この他にも、「一ぴきだけは、からす貝よりまっくろ。」という設定は、「ぼくが目になろう。」というスイミーの知恵に結びつく伏線となっています。

中心人物の変容をとらえる方法の一つに「物語を一文で表す」があります。
「一文で表す」とは、物語を

(中心人物)が、(事件・出来事)によって○○になる/○○する(変容)話。

という形でまとめることです。

「スイミー」の授業で、「物語を一文で表す」活動を行ってみると、次のような「一文」が多く見られます。

「スイミーが、目になることによって、大きな魚をおい出す話。」
「スイミーが、みんなと協力する話。」
「スイミーが目になる話。」

どれもこの物語のことを表した文であることは確かです。
しかし、これらの一文が中心人物であるスイミーの変容を表しているといえるでしょうか?

そこで前述の、設定や伏線を大切にした読みを振り返ってみましょう。
「スイミー」の物語は、「小さな魚が知恵を出し、協力することで大きな魚に勝った」という単純なものではありませんでした。
前半ではスイミーが「幸せな生活を失い孤独になってしまった」という悲劇が描かれ、それが伏線となり、スイミーの勇気や知恵につながっていました。
結末では「かがやく光の中」を新たな仲間とおよぎ、宿敵ともいえる大きな魚を追い出すことで、幸せになります。
この幸せは、一度失ったものを取り戻したわけですから、より大きな幸せであるといえるでしょう。
これらを踏まえると、次のような一文ができあがります。

スイミーが、海の素晴らしいものと出会い、元気を取り戻し、知恵をはたらかせ、
体の黒い自分の個性を生かして大きな魚を追い出すことによって、
みんなで楽しい暮らしをする話。

物語のはじめの設定をしっかりとらえておくことによって、結末で描かれた情景のとらえかたに深みが増すことがわかると思います。
単に大きな魚を追い出した話なのではなく、「幸せを一度失ったものの、自分の個性を生かし、知恵をはたらかせることによって、再び幸せな暮らしを取り戻す」という大きなドラマが見えてきます。
これが物語の主題につながっていくのです。
なお、2年生の単元ですので実際の授業では、「主題」としては扱いません。「作者が描きたかったこと」「作者が読者であるみんなに伝えたかったこと」といった表現で、変容から物語を読み味わう活動になります。

スイミーには、

  • 設定の部分で読みの方向が示されている。
  • 作品のテーマに深みがある。
  • 叙述においては、多くの技法が使われている。

といった特徴がありました。
2年生になると、扱う物語の構造も1年生のときと比べて複雑になります。
描かれている時間が長くなったり、場所の移動もあります。
それらを確実にとらえる読みの力をつけるのと同時に、単純にストーリーを追っていくだけでなく 「作者はこの物語で何を伝えたかったのだろう。」 といったことを考えたながら読む力をつけていくことが大切です。
それが、高学年になったときに「作品の主題」をとらえることができる読みの力につながっていきます。