白石範孝の国語授業の教養講座-指導用語編-

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白石範孝の国語授業の教養講座 指導用語編  vol.5 物語の登場人物・中心人物・対人物と語り手

物語の登場人物・中心人物・対人物と語り手

最初に問題を出してみましょう。 【問い①】「白いぼうし」(あまんきみこ・作/光村図書4年上)の「いなかのおふくろ」は登場人物? 【問い②】「お手紙」(アーノルド=ローベル・作/光村図書2年下)の中心人物は、「がまくん」と「かえるくん」のどっち? 【問い③】「海の命」(立松和平・作/光村図書6年)の対人物は誰? 【問い④】「ワニのおじいさんのたから物」(川崎洋・作/東京書籍3年上)で、たから物がおにの子の足もとにうまっていることを知っているのは誰? いずれの問題も、「登場人物」「中心人物」「対人物」「語り手」などに関するものです。今回は、これらの問題の答えを考えながら、読んでみてください。 登場人物 人のように話したり、動いたり、考えたりすれば、無生物でも登場人物。 物語で述べられている人物のうち、「人のように話したり、動いたり、考えたりと、自分の意志で行動する人物」が「登場人物」です。登場「人物」といいますが、必ずしも人間である必要はありません。動物や植物、天体やモノなどでも、上記の登場人物の定義にあてはまれば、「登場人物」です。たとえば「こわれた千の楽器」(野呂昶・作/東京書籍4年上)の楽器たちは、人のように話したり、動いたり、考えたりすることができますから、登場人物です。反対に、物語の中でその存在が語られていたり、名前があがったりしていても、その人物の言動に関わる描写がなければ、登場人物とは言えません。 中心人物 最も大きく変容している登場人物が、中心人物。 物語の登場人物のうち、物語の冒頭と結末でもっとも大きく変容している人物が「中心人物」です。「変容」とは、心情や行動の変化のことです。心情の変化はその人物の行動の変化にも表れますから、心情の変化が直接述べられていなくても、行動の変化からとらえることができます。また、物語が三人称限定視点で描かれている場合、語り手が寄り添っているのが中心人物です。※語り手は、常に中心人物に寄り添っているとは限りません。特にクライマックスの直前には中心人物から離れることが多く見られます。 対人物 登場人物以外でも、中心人物の変容に最も大きく関わっていれば対人物。 物語の中で、「中心人物に対して重要な役割や特別な関係をもつ人物」が対人物です。ここで重要なことは、「登場人物以外の人やもの・こと」が対人物になる場合もあるということです。登場人物の定義にあてはまらなくても、中心人物の考えや行動を大きく変える存在(人・もの・こと・動植物)は「対人物」となります。 語り手 語り手と、作者、会話文の話し手は別。 物語の中で、読み手に対して登場人物の行動や気持ちを説明しているのが「語り手」です。「話者」ともいいます。「語り手」は、物語の「作者」とは異なります。作者は物語の外にいて物語を創作しますが、語り手は、物語の中にいて外の世界を知りません。語り手も作者の創作物だと言っていいでしょう。そのため、語り手は「隠れた登場人物」ともいわれます。 読み手は、大抵の場合、語り手の視点から見える世界を読むことになります。語り手を意識することで、作者が読み手の心をかきたてるために作品の中に仕組んだしかけや、織り込んだ演出という面白さを味わうことができる場合もあります。 「おちば」(アーノルド=ローベル・作/光村図書2年下、東京書籍2年下)では、登場人物である「がまくん」と「かえるくん」は、それぞれが相手のことを思ってしていることが同じなのに、二人ともそのことを知らない――という物語です。この物語のおもしろさは、「登場人物の二人は真実を知らないのに、読者は全てを知っている」という関係です。この関係が、語り手によって作られているのです。語り手の役割は、ただ物語を進行させることだけではないのです。...
白石範孝の国語授業の教養講座 指導用語編 vol.4 表現活動 ~「読書感想文を書く」を通して~

表現活動 ~「読書感想文を書く」を通して~

国語の学習において圧倒的に不足しているのが「具体的な方法を教えること」です。特に表現活動において、その悪影響があらわれています。今回は、説明文の学習で学んだ「基本三文型」、物語の学習で学んだ「一文で書く」の2つを「読書感想文を書く」に活用してみたいと思います。
白石範孝の国語授業の教養講座 指導用語編 vol.3 詩と音数

詩と音数

今回は、詩が紡ぎ出す印象と「音数」とのかかわりについて解説します。
白石範孝の国語授業の教養講座 指導用語編 vol.2 説明文の「基本三部構成」と「基本三文型」

説明文の「基本三部構成」と「基本三文型」

今回は、説明文をまるごととらえるために必要な「基本三部構成」と、基本三部構成を形作る「説明文を構成する5つの要素」について考えてみます。
白石範孝の国語授業の教養講座 指導用語編  vol.1 「物語の基本三部構成」

物語の基本三部構成

「○○の気持ちは、どんな気持ち?」「どうして○○は、こんな気持ちになったのでしょうか?」こんな投げかけをする国語の授業をよく見ます。はたして、「登場人物の気持ち」をとらえることが、物語の授業で最も大切なことなのでしょうか?これまでの連載でもお伝えしてきたとおり、物語の読みのねらいは、「中心人物の変容」を読むことにあります。今回は、物語の授業で最も大切なことである「中心人物の変容」についてお話しします。