物語の登場人物・中心人物・対人物と語り手
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最初に問題を出してみましょう。
【問い①】
「白いぼうし」(あまんきみこ・作/光村図書4年上)の「いなかのおふくろ」は登場人物?
【問い②】
「お手紙」(アーノルド=ローベル・作/光村図書2年下)の中心人物は、「がまくん」と「かえるくん」のどっち?
【問い③】
「海の命」(立松和平・作/光村図書6年)の対人物は誰?
【問い④】
「ワニのおじいさんのたから物」(川崎洋・作/東京書籍3年上)で、たから物がおにの子の足もとにうまっていることを知っているのは誰?
いずれの問題も、「登場人物」「中心人物」「対人物」「語り手」などに関するものです。
今回は、これらの問題の答えを考えながら、読んでみてください。
人のように話したり、動いたり、考えたりすれば、無生物でも登場人物。
物語で述べられている人物のうち、「人のように話したり、動いたり、考えたりと、自分の意志で行動する人物」が「登場人物」です。
登場「人物」といいますが、必ずしも人間である必要はありません。
動物や植物、天体やモノなどでも、上記の登場人物の定義にあてはまれば、「登場人物」です。
たとえば「こわれた千の楽器」(野呂昶・作/東京書籍4年上)の楽器たちは、人のように話したり、動いたり、考えたりすることができますから、登場人物です。
反対に、物語の中でその存在が語られていたり、名前があがったりしていても、その人物の言動に関わる描写がなければ、登場人物とは言えません。
最も大きく変容している登場人物が、中心人物。
物語の登場人物のうち、物語の冒頭と結末でもっとも大きく変容している人物が「中心人物」です。
「変容」とは、心情や行動の変化のことです。
心情の変化はその人物の行動の変化にも表れますから、心情の変化が直接述べられていなくても、行動の変化からとらえることができます。
また、物語が三人称限定視点で描かれている場合、語り手が寄り添っているのが中心人物です。
※語り手は、常に中心人物に寄り添っているとは限りません。特にクライマックスの直前には中心人物から離れることが多く見られます。
登場人物以外でも、中心人物の変容に最も大きく関わっていれば対人物。
物語の中で、「中心人物に対して重要な役割や特別な関係をもつ人物」が対人物です。
ここで重要なことは、「登場人物以外の人やもの・こと」が対人物になる場合もあるということです。
登場人物の定義にあてはまらなくても、中心人物の考えや行動を大きく変える存在(人・もの・こと・動植物)は「対人物」となります。
語り手と、作者、会話文の話し手は別。
物語の中で、読み手に対して登場人物の行動や気持ちを説明しているのが「語り手」です。
「話者」ともいいます。
「語り手」は、物語の「作者」とは異なります。
作者は物語の外にいて物語を創作しますが、語り手は、物語の中にいて外の世界を知りません。
語り手も作者の創作物だと言っていいでしょう。
そのため、語り手は「隠れた登場人物」ともいわれます。
読み手は、大抵の場合、語り手の視点から見える世界を読むことになります。
語り手を意識することで、作者が読み手の心をかきたてるために作品の中に仕組んだしかけや、織り込んだ演出という面白さを味わうことができる場合もあります。
「おちば」(アーノルド=ローベル・作/光村図書2年下、東京書籍2年下)では、登場人物である「がまくん」と「かえるくん」は、それぞれが相手のことを思ってしていることが同じなのに、二人ともそのことを知らない――という物語です。
この物語のおもしろさは、「登場人物の二人は真実を知らないのに、読者は全てを知っている」という関係です。
この関係が、語り手によって作られているのです。
語り手の役割は、ただ物語を進行させることだけではないのです。
それではここで、冒頭の問題の答え合わせをしましょう。
【問い①】
「白いぼうし」の「いなかのおふくろ」は登場人物?
【答え】登場人物ではない。
「いなかのおふくろ」は、運転手の松井さんとお客の紳士の会話に出てきますが、物語の中に実際に出てきて、会話をしたり、行動したりはしません。
したがって、登場人物ではありません。
【問い②】
「お手紙」の中心人物は、「がまくん」と「かえるくん」のどっち?
【答え】がまくん
物語の設定の部分での「こだわり」は、がまくんの悩みです。
また、この作品の語り手は、最初から「がまくん」の立場に寄り添って話が進んでいます。
さらに、二人の変容を見てみると、
〈がまくんの変容〉
・もらったことがないお手紙を、かえるくんからもらうことができた。(願いが叶った)
・かえるくんから手紙をもらうことによって、自分には、こんなに素敵な友だちがいることに気がついた。(友だちの発見)
〈かえるくんの変容〉
・親友のがまくんが、手紙をもらったことがなく、悲しんでたが、自分が出した手紙をもらって喜んでくれた。
と、がまくんのほうが大きく変容していることがわかります。
したがって、この物語の中心人物は、がまくんであるといえます。
【問い③】
「海の命」の対人物は誰?
【答え】クエ
この物語では、中心人物「太一」に影響を与える人物が何人もいます。
おとう、与吉じいさ、母などです。
「登場人物」ではありませんが、クエの存在も太一に影響を与えています。
太一の変容は、本当の意味での海と人間の共生を理解することで、村一番の漁師になったことです。
その変容点である「クライマックス」は、「水の中で太一はふっとほほえみ、口から銀のあぶくを出した。」です。
この瞬間に太一は、「獲物」として見ていたクエを、「神聖なもの」ととらえることができたわけです。
だから、クエを打つことをやめたのです。
海で生きるための「悟り」を開いた瞬間だったともいえるでしょう。
以上のことから、太一に大きく関わり、太一を変容させた対人物は「クエ」ということになります。
【問い④】
「ワニのおじいさんのたから物」で、たから物がおにの子の足もとにうまっていることを知っているのは誰?
【答え】語り手と読者
おにの子が見つけたたから物は、切り立つようながけの上からみたうつくしい夕やけが、いっぱいに広がっていた景色です。
ワニのおじいさんのたから物は、そのおにの子の足もとにうまっているわけですが、おにの子はそのことを知らない――という結末の話です。
この物語の語り手は、本当のたから物がおにの子の足もとにうまっていることを知っています。
また、読み手も語り手を通して、そのことを知っています。 ところが、中心人物であるおにの子だけはそのことを知らず、自分がたから物だと思い込んだ風景を眺めています。 これが、語り手の語りを通した読みの面白さなのです。
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今月は、登場人物、中心人物、対人物、語り手について見てきました。
物語は、中心人物の変容を描いたものだと言えます。
したがって、中心人物や、中心人物を変容させた対人物をとらえることは、物語の学習においてとても大切なことです。
また、無意識に読んでしまいがちな語り手の存在を意識することによって、物語をより奥深く味わうことができます。
今回は、ちょっとした問題を楽しんでいただきました。
しかし、実際の授業では「中心人物を特定する」といったことを目的としてしまうのではなく、特定するまでの読みや、特定した後にその変容から主題にせまる――といったことを大切にしてください。
「中心人物を言い当てた」で終わりにしてしまわないよう、注意してください。
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次回は説明文の「筆者の主張」についてご説明する予定です。
また、一緒に学びましょう。