詩と音数

執筆者: 白石 範孝

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はじめに、詩を1つ紹介しましょう。

  スピードかぞえうた

        川崎洋


  • ①ひとくいざめのむしば
  • ②きゅうけつきににんにく
  • ③しょうべんこぞうのへそ
  • ④おねしょしてしかられた
  • ⑤かぜこぞうひざこぞう
  • ⑥ライオンとにらめっこ
  • ⑦とうさんのでかいくつ
  • ⑧うちゅうじんとじゃんけん
  • ⑨カバはばかのはんたい
  • ⑩これでひゃくかぞえたよ

※ ①~⑩の番号は筆者が付したもので、行番号を表す。

川崎洋さんの詩で、最後に「これでひゃくかぞえたよ」とある通り、100まで数える、数え歌になっています。
では、なぜ、「ひゃく」数えたことになるのでしょう?

文字数でしょうか?
数えてみましょう。

①行目…10文字 ②行目…11文字
③行目…11文字 ④行目…11文字
⑤行目…10文字 ⑥行目…10文字
⑦行目…10文字 ⑧行目…12文字
⑨行目…10文字 ⑩行目…11文字 

合計 106文字

このように100文字を超えてしまいます。

実は、この詩で数えているのは「音数」です。
俳句の「五七五」、短歌の「五七五七七」などに関係しますが、実はこの「音数」は、詩が紡ぎ出す印象にも関わっているのです。
今回は、「音数」について学んだうえで、「音数」がどんな効果を生み出すのかを考えてみます。

「音数」とは何なのか、確認しておきましょう。

音数
文を声に出して読むときの音の数。
手拍子や机をたたきながら数えるともっと分かりやすくなる。

【「しょうがっこう」の場合】
[文字数]
「し」+「ょ」+「う」+「が」+「っ」+「こ」+「う」 ……7文字

[音数]
手をたたきながら読むと
「しょ」+「う」+「が」+「っ」+「こ」+「う」
と6回たたく。……6音

「音数」を正しく数えるときに重要なことは、「清音」「拗音」「促音」「濁音」「半濁音」「撥音」「長音」を区別して、それぞれどのように数えるのかをはっきりさせておくことです。

音数の数え方のきまり

※スマートフォンの場合、左右にスクロールしてご覧ください。

音の種類 数え方
清音
「あいうえお」など、拗音、促音、濁音、半濁音、撥音、長音以外の音
1文字で1音と数える。 あめ
→2音
拗音
小さい「ゃ」「ゅ」「ょ」のつく音
前の文字+小さい「ゃ」「ゅ」「ょ」で1音と数える。 しゃかい
→3音
促音
小さい「っ」のつく音
前の文字+小さい「っ」で2音と数える。 いっこ
→3音
濁音
ガ・ザ・ダ・バ行の音
1文字で1音と数える。 バス
→2音
半濁音
パ行の音
1文字で1音と数える。 パパイヤ
→4音
撥音
「ん」のつくはねる音
前の文字+「ん」で2音と数える。 こんにちは
→5音
長音
「ー」で表現される伸ばす音。
清音+「ー」で2音と数える。 コート
→3音

※正確には、言語において、ひとまとまりの音として意識される音の単位は「音節」といいますが、ここでは、「音」「音の数」と表現しました。

決まりをもとに「音数」と「文字数」をしっかりと区別し、音数を正しく数えられるようにし ておくことが大切です。

冒頭で紹介した「スピード数え歌」の音数を見てみましょう。

  スピードかぞえうた

        川崎洋


  • ① ひ+と+く+い+ざ+め+の+む+し+ば  ……10音
  • ② きゅ+う+け+つ+き+に+に+ん+に+く ……10音
  • ③ しょ+う+べ+ん+こ+ぞ+う+の+へ+そ ……10音
  • ④ お+ね+しょ+し+て+し+か+ら+れ+た ……10音
  • ⑤ か+ぜ+こ+ぞ+う+ひ+ざ+こ+ぞ+う  ……10音
  • ⑥ ラ+イ+オ+ン+と+に+ら+め+っ+こ  ……10音
  • ⑦ と+う+さ+ん+の+で+か+い+く+つ   ……10音
  • ⑧ う+ちゅ+う+じ+ん+と+じゃ+ん+け+ん ……10音
  • ⑨ カ+バ+は+ば+か+の+は+ん+た+い   ……10音
  • ⑩ こ+れ+で+ひゃ+く+か+ぞ+え+た+よ  ……10音

音数ならば、ちゃんと100まで数えることができましたね。

ところで、いまさらですが「詩」とは何でしょう?
子どもたちに尋ねられたら、どう説明しますか?
「詩」とは、次のように表すことができます。

詩とは、人間の五感(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚)を通して、自然や人間社会における出来事や興味がわくこと、また面白みを感じることや感動等を、リズムをもった言語形式で表現したもの。

この定義の前半の「五感」や「興味がわくこと」などについても気になりますが、今回は後半の「リズムをもった言語形式」に注目してみましょう。

「リズムをもった表現」とは、様々な表現技法の基盤となっており、その表現技法は、「音数」で支えられています。
日本語は、5音や7音の言葉が多いと言われています。
したがって、5音と7音の組み合わせで一定のリズムが生まれます。
その端的な例が、冒頭でも触れた「短歌・俳句」でしょう。

短歌…五音・七音・五音・七音・七音(57577のリズム)の三十一音で構成されている。
俳句…五音・七音・五音(575のリズム)の十七音で構成されている。

短歌、俳句を鑑賞したり、創作したりするときには音数を正しく数えることができなくてはなりません。
そのためにも、音数の数え方の決まりを知っておく必要があるのです。

5音、7音の組み合わせが大切なのは、短歌・俳句だけではありません。 短歌・俳句以外の詩でも、5音、7音の言葉の組み合わせが多く見られます。 そこで生まれるのが「五七調」「七五調」という効果です。

北原白秋の詩「落葉松」の一節
「からまつの林を過ぎて、」
は、5音の言葉と7音の言葉が結びついているので、「五七調」です。
小野十三朗の「えんそく」の一節
「おひるについた山の上」
は、7音の言葉と5音の言葉が結びついているので、「七五調」です。

「五七調」と「七五調」、似ているように感じますが、それぞれが生み出す効果は真逆です。

五七調…重厚な調子。重たい感じを与える。
七五調…軽快な調子。弾んだ感じを与える。

「落葉松」と「えんそく」をもう少し引用してみましょう。

「落葉松」(五七調)
からまつの林を過ぎて、
からまつをしみじみと見き。
からまつはさびしかりけり。
たびゆくはさびしかりけり。

「えんそく」(七五調)
おひるについた山の上
くまなくすんだ青い空
うごくともなくうごいてる
遠い小さなレンズ雲

陰鬱なカラマツ林や、遠足のワクワク感が伝わってくるのではないでしょうか。

このように、音数を意識することによって、詩の作者がどんなことを表現しようとしたのかを考えたり、自分で詩を創作したりするときに役立てたりすることができるのです。

今月は、「音数」の数え方と、「音数」がもたらす効果について考えました。 次回は「作文や創作などの表現活動」についてご説明する予定です。

また、一緒に学びましょう。