
中心人物の変容
|
|
物語の学習では、教材文から様々なことを読み取ります。
どれをとっても物語の読みの学習においては、とても重要な内容ですが、物語の読みで最も重要なのは、
中心人物をとらえて、その人物がどのように変容したのかを読む
ことです。
どうして、物語の読みにおいて「中心人物をとらえて、その人物がどのように変容したのか」を読むことが大切なのかを考えていきましょう。
次の図は、この連載の第1回で紹介した、物語の基本三部構成を図で表したものです。
この図を見ると、「物語とは中心人物の変容を描いたもの」であることが、改めてわかると思います。
また、これも第1回で触れましたが、物語を一文で書くと、次のようになります。
「中心人物が、何によって、どうなった」が描かれているのが物語である――ということがおわりいただけると思います。
「物語の読みでは、中心人物の変容をとらえることが大切」というと、物語の結末における中心人物の様子、つまり「中心人物がどうなったか」「変容後の中心人物」を注視しがちです。
しかし、それでは「中心人物の変容」をとらえることはできません。
「変容前」の中心人物の様子もしっかりとらえておかなければ、「変容前」と「変容後」の中心人物の様子を比べることができないからです。
では、変容前の中心人物の様子はどこで描かれているかというと、《設定の部分》です。
《設定の部分》
設定の部分で描かれている中心人物の様子やこだわりをしっかりとらえておくことによって、変容のきっかけや理由、クライマックスなども明確にとらえることができるのです。
ところが、物語の学習では、この《設定の部分》の読みが十分に行われていない授業もしばしば見かけます。
その代表的な例の一つが「お手紙」です。
「お手紙の中心人物は、『がまくん』と『かえるくん』のどちらか」については、この連載の第5回でも「語り手がどちらに寄り添っているか」という視点から論じました。
今回は「設定の叙述」から考えてみます。
「お手紙」の冒頭の部分を見ると次のように書かれています。
「うん、そうなんだ。」
がまくんが言いました。
「今、一日のうちのかなしい時なんだ。つまり、お手紙をまつ時間なんだ。そうなると、いつもぼくとてもふしあわせな気もちになるんだよ。」
「そりゃどういうわけ?」
かえるくんがたずねました。
「だって、ぼくお手紙もらったことないんだもの。」
がまくんが言いました。
「いちどもかい?」
かえるくんがたずねました。
「ああ。いちども。」
がまくんが言いました。
「だれもぼくにお手紙なんかくれたことがないんだ。毎日、ぼくのゆうびんうけは空っぽさ。手紙をまっている時がかなしいのは、そのためなのさ。」
この物語では、 がまくんの「悲しさ」が、話のスタートとなっていることがわかります。
物語の結末では、がまくんもかえるくんも「しあわせな気もち」になっていますが、冒頭と比べたときにより大きく変容しているのは「悲しみ」から「しあわせ」に変容した「がまくん」です。
したがってこの物語の中心人物は「がまくん」であり、悲しんでいたがまくんが、どんな出来事によって変容したのかを読むのが、この物語の読みの学習では重要であることがわかります。
*
今月は、中心人物の変容について見てきました。
物語の読みでは、《設定の部分》をしっかりととらえた読みによって、中心人物の変容をとらえることが大切だということを、理解していただけましたでしょうか。
*
次回は「短歌・俳句」についてご説明する予定です。
また、一緒に学びましょう。