物語の基本三部構成

執筆者: 白石 範孝

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「○○の気持ちは、どんな気持ち?」
「どうして○○は、こんな気持ちになったのでしょうか?」
こんな投げかけをする国語の授業をよく見ます。
はたして、「登場人物の気持ち」をとらえることが、物語の授業で最も大切なことなのでしょうか?
これまでの連載でもお伝えしてきたとおり、物語の読みのねらいは、「中心人物の変容」を読むことにあります。

今回は、物語の授業で最も大切なことである「中心人物の変容」のとらえ方についてお話しします。

「教材分析をするときには、まず、作品全体を3つの部分に分けましょう。」
様々な勉強会や、セミナーなどで、私がいつもお伝えしていることです。
物語や説明文などの教材文を、〈はじめ〉〈なか〉〈おわり〉の3つの部分に分けてみる――つまり「基本三部構成」をとらえるということです。
皆さん、熱心に取り組まれ、〈はじめ〉〈なか〉〈おわり〉の区切りがどこなのか、喧々諤々の議論になることもたびたびです。

でも……。
皆さん、ちょっと考えてみてください。
なぜ、「全体を3つの部分に分けてとらえる」のでしょうか。
ときどき、「『3つの部分』の分け方がわかって、満足した」ということもあるようです。
しかし、教材分析において、「3つの部分に分ける」はゴールではありません。本当の教材分析は、「3つの部分」に分けた後から始まると言っても過言ではありません。

「物語」とは何を描いたものか?
国語の教材としての物語とは、「中心人物の変容」を描いたものです。
ですから、物語を次のように表すことができます。

矢印は物語の進行と中心人物の変容を表しています。
中心人物の「こだわり」や「抱えている問題」「悩み」などが解決するのが「+」の変容、そうならないのが「-」の変容です。

この図を見ると、物語の冒頭での中心人物と、物語の結末での中心人物を比較することで、中心人物がどう変容したのかをとらえられることがわかります。

ただ、それだけで物語をとらえることができたと言えるでしょうか?
たとえば、
「ひとりぼっちのごんが、兵十と心をかよわせることができた話」
これだけで、「ごんぎつね」の物語を表すことができるでしょうか。
物語では、間に起こった出来事、つまり、中心人物の変容の原因も、大きな要素となります。

整理すると、次のような図になります。

これが、基本三部構成になります。

この3つの部分に描かれていることを短くまとめると、次のように、物語を「一文」でまとめることができます。

いかがでしょうか。
このように見てくると、中心人物が、何によって、どう変容したのかがはっきり見えて、物語全体をとらえることができます。
これが、「全体を3つの部分に分けてとらえる」ことの目的なのです。

「中心人物」や、「登場人物」などについての細かい内容については、今後の本講座で説明します。

ところで、物語の構成については「起承転結」という考え方もあります。
確かに、物語のストーリーや、「事件・出来事」の流れを考えるときはよいのですが、「中心人物の変容」はあまり見えません。
また、《設定の部分》と《山場の部分》を合わせて、「起」「承」「転」の3つの部分に分けることになるので境目があいまいになってしまいます。
物語の全体をとらえるための基本三部構成〈はじめ〉〈なか〉〈おわり〉と、ストーリーの流れを表す「起承転結」とは、役割が異なるのです。

以上、今月は「基本三部構成」をとらえる目的と方法についてお話ししました。
次回は、説明文の構成についてご説明する予定です。
また、一緒に学びましょう。