「立体型板書」が引き出す力とは?

「立体型板書」が引き出す力とは?

「立体型板書」や「書かない板書」など、板書に関する提案で話題を集める沼田拓弥先生(東京都・八王子市立第三小学校)と、沼田先生が代表を務める「立体型板書研究会」による連載。 一人一台端末が普及した現在において、「板書」の役割を根底から見つめ直し、デジタルとアナログの効果的な融合を目指した実践を紹介していきます。 第2回は論理的思考力を引き出す「立体型板書」の理論と実践を沼田先生が紹介します。 『こまを楽しむ』の板書を例に、動画も合わせて板書の意義に迫りましょう。

情報がただ羅列する場として板書を使うのはもったいない。

板書を通して、子どもたちの思考や表現をいかに伸ばしていくか。これが板書を活用する最大のポイントです。学習内容の再確認のためだけに言葉を並べるのであれば、スライドで十分かもしれません。「気付き」や「発見」へとつながる板書の工夫が、子どもたちの言葉の力を育みます。 そんな板書の力を活用すべく、私が提案したのが「立体型板書」です。今回は、この「立体型板書」が引き出す子どもたちの力にフォーカスしてお話しします。

「立体型板書」は、以下の10の型を基本としながら、板書を論理的思考ツールとして活用します。

  • ① 類別型
  • ② 対比型
  • ③ ベン図型
  • ④ 構造埋め込み型
  • ⑤ 問答・変容型
  • ⑥ 人物相関図型
  • ⑦ スケーリング型
  • ⑧ 移動型
  • ⑨ 穴埋め型
  • ⑩ 循環型

これらの10の型は、私の恩師・長崎伸仁先生から指導を受けた「立体的板書」の9分類を発展させたものです(「立体的板書」の詳細は、長崎伸仁・桂聖(2016)『文学の教材研究コーチング』(東洋館出版社)のp.80に掲載されています。ご参照ください)。

「立体型板書」で育てる力の一つとして3つの論理的思考力があります。黒板上の情報を「比較・分類」し、「関連付け」、「類推」することで、読みが広がり、深まります。上記の10のバリエーションを3つの論理的思考力に分類すると、以下のようになります。

ここで取り上げた3つの論理的思考力は、「整理する」「つなげる」「気付きを生み出す」と言い換えることもできます。

  • 「比較・分類」…情報を「整理する」。子どもたちの言葉を比べることで、その関係性から様々な見方・考え方を引き出します。
  • 「関連付け」…情報を「つなげる」。言葉を比べたことで明らかになる関係性を線や矢印で結び、より構造的に、自分たちの学びを俯瞰することができます。
  • 「類推」…新たな「気付きを生み出す」。板書上に、あえて情報を書かないというしかけを入れることで、子どもたちの頭の中に「?」を生み出します。この「?」が解決し「!」になった時、子どもたちの学びはグッと深まります。

このように、思考の論理に注目することで、単なる情報の羅列だけの「羅列型板書」では生み出すことの難しい学びを引き出すことが可能になります。 また、これらの力を育てることを視野に入れると、他者との考えの共通点や相違点も明らかにしながら、学びを深める子どもの姿を見ることができます。

では、今回は「こまを楽しむ」(光村図書3年)の授業を通して、板書が引き出す力について具体的に考えてみましょう。

授業の概要を解説します。
この板書は「立体型板書」のバリエーションを様々、用いています。
まず、授業前半では、「構造埋め込み型」と「問答型」を用いています。この2つを活用することで、文章構造を確認・整理しつつ、文章全体を俯瞰することをねらっています。
次に、授業中盤から後半にかけては、板書中央部にて、「対比型」で比較していた思考を「ベン図型」へと変化させました。この変化によって、子どもたちの「気付き」と「発見」を引き出しました。
各段落に書かれているこまの特徴をただ羅列して整理するだけでは、この授業のような「気付き」や「発見」は生まれなかったでしょう。
このように、板書一つで情報の見え方は変わってきます。子どもたちの言葉を黒板にただ記録するために書き並べただけでは、思考は活性化されません。板書を通して、子どもたちの思考に刺激を与えるのが「立体型板書」です。
板書が変われば、授業が変わります。
思考力を育てるためには、どんな学習ツールを用いて、どのような学び方を身に付けるのか、そのための学習環境をどのように整えるのかが重要になります。
「内容を整理するだけの板書」ではなく「構造と内容をつなげる板書」として活用したのがこの授業です。

授業内における「広がり」と「深まり」のイメージ

実際にどのような流れで、子どもたちの言葉を整理したのかは、ぜひ動画でご覧ください。

では、「こまを楽しむ」の動画で紹介した学びは板書でなければ引き出すことができなかったのでしょうか。今の時代、一人一台端末が手元にある子どもたちにとって、板書を通したこれらの学びはどこまで有益なのでしょうか。少し視点を変えて考えてみましょう。
まずは、「考えの共有」です。学習課題に対する一人ひとりの考えを共有する際にタブレット型端末を用いれば、より詳細な「個の考え」をもとに思考することができます。
一方、情報量が多すぎるため、30人以上の考えを一覧で見ることはできても、自分一人では処理しきれない場面も出てきます。10人程度の少人数の考えを共有する際には、大きな力を発揮するのではないかと考えています。それ以上になると画面上では小さくなってしまい、見づらいように感じています。
次に、「気付き」と「発見」です。
板書とタブレット型端末。ここまで述べてきたように、それぞれのツールを使った時にどのような力を引き出したいのかを視野に入れておくことが大切です。
どちらのツールも「視覚的効果」をねらう部分は共通しています。
今回の板書では、「どちらの方が楽しめそうか」を話し合うことを通して、「中とおわり」の部分を結ぶ文章の論理に気付く力を意識して授業を作りました。
板書による学習支援の場合、教師が板書スキルを身に付けることで、その場の「即興的授業力」も磨かれます。授業中に生まれた子どもの言葉を柱に授業をつくることができるのです。
一方、タブレット型端末による学習支援は、事前準備を行うことはできますが、板書のようにその場で子どもたちの声をリアルに反映させながら提示することが難しい部分があります。どちらのメリットもうまく生かしながら「何のためにそのツールを用いるのか」という目的を大切にすることで、子どもたちの力は最大限まで引き出されます。

最後に、ここまで紹介した「立体型板書」と「羅列型板書」のどちらが見やすいかについて触れておきます。これは、一人ひとりの認知処理スタイル が大きく関わっていると考えています。
つまり、継次処理タイプか同時処理タイプかによって感じ方が変わってくるのです∗。
「立体型板書」は、黒板全体をダイナミックに使用するものが多いのです。継次処理タイプの子は、理解しづらいこともあるでしょう。そのため、途中で板書上の情報を時系列で確認しながら整理するという手立てが必要になります。この学習プロセスを順序立てて確認する時間をもつことが授業内容の理解を助けることにつながります。
このように、板書の際に大切なことは、教室にはどちらのタイプの子どもも必ず存在するということを意識して授業をすることです。

さて、今回は「立体型板書」が引き出す力について考えてみました。
板書でたどる思考プロセスが子どもたちの論理的思考力を育てます。私は、国語の授業で「立体型板書」を用いることが多いです。しかし、これまでも子どもたちは理科や算数等の他の教科でも、同じような考え方を用いて思考を整理する姿を見せてくれました。子どもたちは柔軟です。おもしろいと思ったものはどんどん自分の学びに活用します。
「立体型板書」は、論理的思考のプロセスをたどることを意識した板書です。この学び方をみんなで一緒に共有する中に、子どもたち一人ひとりの「個の成長」が生まれます。ぜひ、一度実践してみてください。

次回、第3回では、これまでの考え方からもう一歩踏み込んだ「書かない板書」について詳しく紹介します。

∗藤田和弘(2019)『「継次処理」と「同時処理」学び方の2つのタイプ』(図書文化社)に詳細が解説されています。参考にしてください。