第0回 生徒指導提要を現場の目線で読む
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みなさん、こんにちは。
北海道で小学校の教員をしている藤原友和(ふじわら・ともかず)と申します。
教員生活は23年目をそろそろ終えようとしています。初任は中学校で4年間勤めました。
知的障害を持って生まれてきた長男の療育のために都市部への異動を希望したことがきっかけで小学校に籍を移すこととなり、現在に至ります。
本連載は、オンライン学習会に集まった年齢も性別も教職経験年数もバラバラな仲間たちと、12年ぶりに改訂された生徒指導提要を読み合う会をきっかけに企画されました。
300ページに迫る大部の書を一人で読むことは、少々骨が折れます。
そこで、「1人10分の持ち時間」で「1章ずつ担当」する読書会という形を取りました。
その読書会の名は「生徒指導提要をざっくり読んでみる会」(2022年12月27日開催)と言います。
そうしたところ、私たちは読書会を終えた時、当初考えていた「情報の摂取」以外の大きな効果があったことを発見しました。それは、
・「掲載されている情報に対する現場の実感」
・「どのように活用していけばよいのかという示唆」
といったものでした。
つまり、文部科学省から発出されている文書に「血が通う」瞬間を味わったのです。
「そうか…。こうやって読めばいいんだ。」
きっと、こうした感覚をあの場にいた誰もが味わったのではないでしょうか。
そして、敷衍すればより多くの先生たちとこの感覚を共有することが、現場を元気にし、子どもたちを幸せにすることに繋がるのではないかと考えました。
このようにして、本連載の企画が立ち上がったわけです。
読者の皆さんと一緒に、子どもたちの「社会の中で自分らしく生きることができる存在へと、自発的・主体的に成長や発達する過程」(『生徒指導提要』p.12)をサポートできたら嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。
本連載は、タイトルに示しましたように「現場の目線で読む」ことを核としています。
行政からどんなに完璧な文書が出てきたとしても、現場で具現化されなければ「絵に描いた餅」になってしまいます。
そして、具現化するのは誰かというと、現場にいる人間です。
さらに、一握りのスーパーティーチャーであってはいけません。「必要がない」のではなく「いけない」のです。
不十分なところもある現場の人間が、それぞれチームで協働し、目の前の子どものために仕事を進めていくということが何より大切にされなければいけないと私たちは考えます。
そこで、本連載を以下のように構成して読者の皆様にお伝えしようと思います。
・執筆陣は初任段階からベテラン、養護教諭や民間で学校教育に携わる方までバラエティ豊かに構成すること。
・執筆者の「人となり」があらわれ、どのような視座から生徒指導提要を読んだのか、「どのように現場で生かしていきたいか」が明らかになるように書くこと。
・グラフィック・レコーディングや図解、4コマ漫画等により、わかりやすく可視化すること。
情報が飽和している現代社会です。学校もまた時代の空気からは自由ではありません。
そのような中で、いかに価値ある情報を選び取っていくかということは、児童生徒に育むべき資質・能力です。それととともに、私たち教員にとっても切実な課題です。両者にとって重要な情報活用能力が求められるようになって久しいです。
そのような中、「価値ある情報」に辿り着くためには、発信者の視座をフィルターとすることがポイントなのではないかと思います。
つまり、「初任者にとっては、生徒指導ってこのような取り組みと捉えられているんだな。彼らはここに悩み、これを見ようとして、この部分では我々ベテランのサポートが必要なんだな」と読み解くことです。
あるいは「実際に児童虐待のケースを経験した先生からは、この部分が大切なんだと発信されているんだな。自分も備えておこう」と自分の仕事に結びつけることです。
生徒指導提要の第3章は「チーム学校」として、生徒指導の効果を高めていくための方策が示されています。この場合の「チーム」は、問題解決に向けた専門家としての職能を重ね合わせるところに主眼があります。単に人がいるだけの「グループ」とは少しちがった性質のものであることは留意しなければならないでしょう。
このことをつなげて考えていくと、「学校には様々な経験・立場・能力を持った多彩な職員がいる」ことを前提として、「誰がどのように動くことが組織全体の生徒指導力を高めることになるのか」と考えていくことが大切なのではないかと思います。
本連載が上記のように読まれることを期待しつつ、さらに必要な情報に素早くアクセスするための視覚的な「仕掛け」も取り入れました。
「生徒指導提要をざっくり読んでみる会」では、スライドにまとめた内容をプレゼンしたのですが、聞き手側にグラフィックレコーディングを配置し、理解を促進しようと試みています。
加えて、事後に内容を図解したり4コマ漫画にまとめてくれる仲間もいました。こうした二次的な作品も連載に添えています。そちらにも注目していただければありがたいです。
前述のように、本連載の母体となった「生徒指導提要を読む会」では1人1章を担当しています。そこで、章の担当者をそのまま連載の担当者としました。
執筆者の「人となり」の紹介は、連載回における各自の自己紹介に譲りますが、非常にバラエティ豊かであることは胸を張ることができます。どうぞお楽しみに。
回 | 章及びテーマ | 担当者 |
---|---|---|
第1回 | 第1章 生徒指導の基礎 | 岡田昂樹 |
第2回 | 第2章 生徒指導と教育課程 | 渡邊雄大 |
第3回 | 第3章 チーム学校による生徒指導体制 | 小林雅哉 |
第4回 | 第4章 いじめ | 中島征一郎 |
第5回 | 第5章 暴力行為 | 相磯良太 |
第6回 | 第6章 少年非行 | 山本晃佑 |
第7回 | 第7章 児童虐待 | やまもとひろこ |
第8回 | 第8章 自殺 | 瀬戸山千穂 |
第9回 | 第9章 中途退学 | 肥後漱一郎 |
第10回 | 第10章 不登校 | 松本さおり |
第11回 | 第11章 インターネット・携帯電話に関する問題 | 山崎克洋 |
第12回 | 第12章 性に関する課題 | 中村優輝 |
第13回 | 第13章 多様な背景を持つ児童生徒への生徒指導 | 吉野嵩史 |
12年ぶりの改訂となった生徒指導提要ですが、ページ数の大幅な増加がまず目につきます。改訂前が240ページ弱、改訂版が300ページ弱と、実に60ページもの増加です。
なぜ、そこまでページ数が増えたのでしょうか。改訂された生徒指導提要の「前書き」には以下の記述があります。
近年、子供たちを取り巻く環境が大きく変化する中、いじめの重大事態や児童生徒の自殺者数の増加傾向が続いており、極めて憂慮すべき状況にあります。加えて、「いじめ防止対策推進法」や「義務教育の段階における普通教育に相当する機会の確保等に関する法律」の成立等関連法規や組織体制の在り方など、提要の作成時から生徒指導をめぐる状況は大きく変化してきています。
改訂版作成の背景が語られているこの箇所は、そのまま、現場が直面している課題とも言えるでしょう。本連載が、現代において現場が抱えている課題解決の一助となることを願っています。
漫画制作:ヤッシー(@84yame1000)