新年度がスタートして、約3週間。本格的に授業が始まった学校も多いでしょう。
今回は、「新年度に考えたい、これからの「板書」活用法」と題し、教員2年目の先生、ベテランの先生、中学校の先生、そして海外の板書研究者を招き、座談会を開催し、これからの「板書」の在り方について意見を交わしました。
前編では、初任者としての1年を過ごした久村先生とベテランの藤井先生の実践を中心に板書を考えていきます。お二人は「子どもの発言をどうまとめればよいか分からない」「板書計画を完璧につくりすぎてしまう」という、だれもが陥りがちなつまずきを経験し、乗り越えてきました。つまずき解消のきっかけはどんなところにあったのでしょうか?
今年1年間の授業づくりに役立つ内容が見つかること、間違いなし! ぜひ、最後までお読みください。
座談会出席者(写真上段左から)
沼田拓弥 東京都・小学校教員。『「立体型板書」の国語授業:10のバリエーション』(小社)の出版を皮切りに、板書を軸とする国語授業づくりを提案している。
久村忠司 熊本県・小学校教員。教員1年目となる昨年度、「立体型板書」に取り組む。子どもの姿に手ごたえを感じつつも、大きな反省点が……?
藤井悦子 滋賀県・小学校教員。ベテラン教員ながら、数年前に「立体型板書」に出会い、取り入れ始める。以前はかなりきっちりと板書計画を立てるタイプだったというが……。
槙原宏樹 私立中学校教員。小学校教員を11年つとめ、現在は中学校で国語を教える。
シャーリー・タン(Shirley Tan) オランダ・ウィンデスハイム応用科学大学研究員。名古屋大学授業研究国際センター研究員。世界各国の授業研究の在り方や「板書」などについて研究している。
遊免大輝 大阪府・小学校教員。「立体型板書」研究会事務局長を務める。座談会では聞き役として、さまざまな話題を引き出した。
だれもが通る、板書でつまずきやすいポイント
沼田先生:さて、新年度を迎えるに当たって、今日は板書について、改めて考えていければと思います。 板書は身近な存在でありながら、その使い方やスキルにはまだまだ言語化されていない部分も多く、それぞれの実践や考えを交流していくことで、新たな気づきが得られるのではないかと考えています。 まずは初任者から見た板書についてお話を伺いたいと思います。久村先生は昨年、教師1年目を過ごされたとのことですが、どうでしたか?
久村先生:最初は板書が全然分からなくて……。子どもの意見を集約するのに手間取ってしまいました。
沼田先生:というと?
久村先生:どのタイミングで子どもの言葉を書けばいいのか、どうまとめればいいのかが分からなかったんですよね。結局、いつも同じ展開で進めてしまうという……。
沼田先生:なるほど。板書するタイミングは重要ですよね。
みなさんはどうですか? なにか心がけていることはありますか?
槙原先生:うーん。言語化するのが難しいですね。
でも、心にいつも留めているエピソードはあります。初任者のときの国語授業でのことです。授業が終わって、参観していた先生にアドバイスを聞きに行ったら、「子どもの言葉を背中で聞くんじゃない」と。当時のぼくは、とにかく一生懸命で、板書することに集中してしまっていたんですよ。
はっとして、それからは「あなたの言葉を受け止めたよ」と、子どもに伝わるようにした上で板書することを心がけるようになりました。
沼田先生:あくまでも子どもとのやりとりの中で生まれてきた言葉を記録するという感覚なんでしょうね。
久村先生、そういった変化はありましたか?
久村先生:一人一人の言葉を大事に受け止めていたんですが、そうすると本来は記録しておきたいことも板書する時間がなくなってしまう。でもいまは、同時に子どものつぶやきや記録を残しておけるようになってきました。
タンさん:その感覚はどう育てるんですか?
沼田先生:変化のきっかけは、教師が意図をもてるようになるかどうかだと思います。
私の場合は、教師と子どものやりとりで閉じないことを意識しています。
Aさんが発言したときに、それを学級全体が理解しているかどうか、「今、Aさんが言っていたことみんなに伝わった?」と投げ返すようにしています。そのあとのやりとりを通して、全体で共有できたと感じた言葉を板書することが多いかもしれません。
発言する子どもとの1対1での対話から、全体の反応を把握できるようになることが重要だと思います。
槙原先生:板書はクラスの共有物だと思っています。「共有化されたものを残す」という感覚が大きいですね。
共有化にも2種類あって、「あー」という納得を伴う共有もあれば、すごく個性的な発想――「そういう発想!?」と驚くような発言――で驚きや疑問を伴う共有もあります。
どちらも、クラス全体で思考する価値の高い内容なので、板書するようにしています。
藤井先生:私は板書するときには子どもの言葉で書くことを意識しています。 それから、少数派の意見や「え、こんな見方・考え方もあるの?」という意見を板書するときには、一緒に「?」も書いています。自信をもてない状態で発する発言も大事にしたいので、そのニュアンスのまま残せるようにしています。
「構造の把握」を促すための板書の型
沼田先生:久村先生はこの1年で、どんな反省点がありましたか?
久村先生:子どもの姿はよくなったと思うんですが、テストの結果がついてこなかったことです。
自分なりに考えていくと、「構造の把握」に課題があったのではないのかと思います。それから、「何がどのように書かれているか」について読む「確認読み」と「なぜ筆者がこのように書いたのか?」という筆者の意図を解釈する「解釈読み」*1 の間に飛躍があったことも見えてきました。「確認読み」と「解釈読み」の間を、「立体型板書」を活用しながらうまくつないで、子どもに力をつけるということが大きな目標ですね。
遊免先生:久村先生の実践では「確認読み」で板書を活用していたんですか?
久村先生:「スーホの白い馬」では、岡先生の単元を通して対比型を活用するという実践(第8回)に影響されて、単元計画を練ってみました。
例えば、第5時で殿様がスーホと白い馬にどのような影響を与えたのかを読んでいくときには、まずは殿様がどんな人かを確認していきました。このときは人物相関図型を使っています。
第6時ではこれを対比型で考えています。「スーホはどんな気もちだったかな」を聞いているので、対比型でなくてもよいのですが、結果的にスーホと殿様を対比することで、それぞれの白馬に対する気持ちが正反対であることに気づくなど、次の時間への布石を打つことができました。
そのうえで、第7時で「スーホととのさまでは、白馬への思いにどんなちがいがあるのだろうか」と考えていくときに、2人とも白馬をほしがってはいるけれど、違いがあるということを解釈していくことができて、そのときに対比型の連続使用が効果を発揮したという実感がありました。
遊免先生:なるほど。私は沼田先生がよく実践されている構造埋め込み型でまずは構造を確認してから、解釈にもっていく流れが文学でも説明文でも有効な手立てだと感じています。
例えば、「スイミー」のときには黒板上段に場面の番号を埋め込んで、場面ごとに出来事を一言で表し、確認していきました。その後、「スイミーが考えたことって、どんなことだったのかな?」という発問で、人物相関図型を使い、読んでいきました。この板書は4時間目で、1時間目から構造埋め込み型を使っていたのですが、時間を追うごとにだんだん板書がアップデートされて、読みが深まり、黒板にも新しい言葉が出てくるようになりました。
沼田先生:構造埋め込み型をほかの型と抱き合わせで活用することのよさは、文章の構造を共有しやすいことですよね。根拠となる部分について「どこのこと?」と聞けば、子どもがみんなで一緒に指さすことができる場所があることが大切です。板書に場面番号やキーワードだけでも書いてあると、それを手がかりにつながりを可視化しやすいと思います。
型をもつことで余裕が生まれる
沼田先生:さて、ここからはベテランの藤井先生のお話を伺います。
教員経験を積んでいくなかで、既に自分の授業スタイルや板書の書き方を確立されていたと思うのですが、どうして「立体型板書」に取り組もうと思ったのか、その問題意識が気になります。それから、「立体型板書」に取り組んでみて、実際に変化はあったのかについてもお話しいただけますか?
藤井先生:「立体型板書」に取り組む前の板書計画は、実は書く順番まで考えていて、子どもの意見よりも板書を仕上げることを重視していたんですよ。それこそ、使う色まで決めて、それを教卓に置いて、授業をするというのが以前の私のスタイルでした。
「立体型板書」の10のバリエーションを知って、一番の大きな変化は私自身に余裕が出てきたことです。ある程度の板書のイメージはもっておきながら、子どもの様子を見て計画を変更できるようになりました。
印象深いのが「プラタナスの木」の授業です。この授業では最初は対比型を用いました。授業が進んでいくなかで、春になっても冬になっても変わらないものとして「古い小さなベンチ」が出されました。対比していく中で、変わらないもの(共通項)が見出されて、「あ、これはベン図型だな」と直感して板書を変更しました。最初からベン図型に切り替えていこうと計画していたわけではなかったので、強烈に覚えていますね。
沼田先生:「型をもったら余裕が生まれた」という言葉はいいですね。子どもに合わせて授業をしていくためには余裕が必要ですよね。
槙原先生:共感できる部分がたくさんありました。私には、教える道具になっていた板書を子どもに返していくことで教師の授業観も変わっていくのではないかという問題意識があります。
もともとは教師が教えるための道具として側面が強かった板書をどう子どもが主体のものにできるかと考えることで、教師主導の、教師の敷いたレールのうえを進む授業ではなく、子どもとともに創っていく授業という「観」に変わっていくことができるのではないかと思っています。
藤井先生:まさにその通りですね。
それから子どものノートも変わってきました。
同じ時間のノートでも、子どもによって全く違うものになります。私も「板書を全部書きなさい」とは言わないので、工夫の余地があるのだと思います。
あとは、子どものノートの矢印が太くなったこともおもしろいんです。私が太い矢印を板書で使うようになってから出てくるようになったんですよ。子どもも私を真似て、自分なりに強調して、つながりを太く書くようになりました。
沼田先生:教師の真似を子どもがしているのは、学び方を学んでいる姿だと思います。板書というのは、そういった学びのプロセスを共有する場でもありますよね。
タンさん:型の使い分けについてはどのように考えていますか? 授業内容は同じだけれど、型は違うということはありますか?
藤井先生:先ほどの例だと、「古い小さなベンチ」という発言が出てこなければ、対比型で終わらせていたと思います。
ベン図型を使うにしても、以前の私は最初から丸を書いていたこともありました。子どもに「ベン図だよ」と分かるようにしていたんです。でも、この研究会で「丸で囲むのは最後に」という方法を知って、書く順序もバリエーションのひとつになっていったと思います。
沼田先生:ベン図型は線を引くタイミングで目的が変わってきますよね。最初から線を引いてしまうと、「真ん中に入るものがあるよ」と示唆してしまうことになるので、答え探しになってしまいます。ちょっとしたことですが、気を遣うだけで子どもに与える印象が大きく変わりますね。
《後半に続く》
〈参考文献〉
*1 桂聖(2011)『国語授業のユニバーサルデザイン』東洋館出版社
槙原宏樹(2021)『子どもに「問い」と「気付き」がうまれる「?型板書」の国語授業』東洋館出版社
沼田拓弥(2020)『「立体型板書」の国語授業』東洋館出版社
沼田拓弥(2021)『「立体型板書」でつくる国語の授業 文学』東洋館出版社
沼田拓弥(2021)『「立体型板書」でつくる国語の授業 説明文』東洋館出版社
沼田拓弥(2022)『書かない板書』東洋館出版社